シネマノーツ運営会社代表に聞く!デジタルマーケティングの視点で見る「映画」コンテンツの過去と未来

本記事では「映画」というコンテンツの過去と未来を、メディア・デジタルマーケティングの視点でご紹介します。

デジタルマーケティング企業「株式会社Wedia」の代表であり、10年以上デジタルメディア業界で働くWedia代表今井にインタビューをしました。

 

コロナ禍とその後に続くアフターコロナという新時代が待ち受ける中で、顧客の行動やマーケティングにどのような変化があったのか、そして映画業界のマーケティングはどのようにしていくべきか、この様な悩みをお持ちの方におすすめの内容です。

Weida代表今井の経歴

最初に、今回インタビューをした株式会社Wediaの代表である今井の経歴をご紹介します。

  • 早稲田大学卒業(2010年)
  • 株式会社アイスタイルに新卒入社(2010年)
  • 株式会社イトクロに入社(2013年)
  • 株式会社Wediaを設立(2016年)

 

デジタルメディア企業で都合4回の上場を経験した後、株式会社Wediaを設立し代表取締役に就任。

2020年には売上高3兆円を超える世界最大の人材企業ADECOのグループ企業、株式会社A-STARの最高マーケティング責任者(CMO)に就任しました。

映画業界に効果的なマーケティング手法は?

——映画業界のマーケティング手法は、どういったものが効果的なのでしょうか?

今井:実際に映画業界向けのコンサルティングを行ってきた経験をベースに考えると、映画業界では様々な手法でのマーケティングができると考えています。

ただし、今は映画館だけでなく動画配信サービスも普及しているため、マーケティングを行うのが配信元なのか映画作品単体なのかによって考え方は変化するというのは注意点です。

 

一旦映画作品単体で考えてみた場合、全方位的にマーケティングする必要があります。

例えば『ハリー・ポッター』シリーズの新作映画を公開する場合で考えてみましょう。

『ハリー・ポッター』シリーズはすでに知っており、映画の情報をもっと詳しく知りたいというユーザー向けには、公式サイトをつくるなどの手法が必要です。これはSEO対策で集客できます。

そこでもう1つ必要なのが『ハリー・ポッター』シリーズを知らない人に向けた、新作公開を周知するためのマーケティングです。

これにはInstagramやX(旧Twitter)といったSNSの活用が有効でしょう。

 

リリース前には監督のインタビューや、出演者が参加したイベントや番組などの告知などを実施していくことで新規ユーザーの獲得につなげます。

また、映画はプレスリリース(PR)も重要で、映画系の媒体に新作が公開されることを掲載してもらうという方法があります。

その他に、映画系の媒体にタイアップしてもらうという方法も、映画業界のマーケティングでは主流です。

デジタルマーケティング以外では、テレビCMの放映や、渋谷の109の看板広告の掲載など、自由度の高いマーケティング手法がとられています。

おすすめの手法を答えるのは難しいですが、デジタルマーケティングであればSNSが主流ではないでしょうか。

ただし「YouTubeの動画広告が良い」などのように手法を絞るのではなく、広く全般的に取り組む中で、特にSNSでプロモーションやマーケティングをするという印象です。

映画ジャンルでマーケティング手法は変わるの?

——映画のジャンルによってマーケティングの手法は変わるのでしょうか?

今井:広告の配信先媒体が変わるということはあると思います。

例えばオフラインの看板広告や電車広告のようなSP(セールスプロモーション)広告でみても、媒体は様々です。

ホラー映画であればテーマパークとタイアップしてお化け屋敷の前に広告を掲載したり、SF映画ならJAXAとタイアップして、関連施設のある駅に広告を掲載したりといったようなイメージで、映画ジャンルに応じて広告を配信する媒体を変えることが多い印象があります。

映画ではこうした媒体の違いが大きく、時には大きなセットを使った宣伝方法がとられることもあります。

しかし、ホラー映画ならSEO対策が良くて、戦争映画ならSNS対策が良い、といったマーケティング手法の段階ではそれほど差はないと感じています。

シネマノーツ立ち上げのきっかけは動画配信サービスの登場による影響?

——新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり映画産業は落ち込み気味ですが、今後のユーザーの動きはどう変化するのでしょうか?

今井:シネマノーツを立ち上げるきっかけにもなったことですが、コロナ禍前から映画を視聴する手段として、映画館という手法が徐々にマイノリティ化してきていると感じていました。

映画館では、音響設備があり大きなスクリーンで見られるという映画館ならではのプレミアムな体験が味わえますが、一方でそこまでの体験を求めてない人もいます。

つまり映画という体験のモチベーションは今ままでは「映画グッズを買い、映画を映画館で見た上でDVDも買う」コア層、「映画館に行く」ミドル層、その下に「DVDレンタルする」ライト層という3層構造になっていました。

しかし、そこに動画配信サービスが登場したことで、3階層目に革命が起きています。

図にすると以下です。

動画配信サービスがレンタルよりも映像の質や借りる手間など、金額以外の面でもローコストを実現したことで、3階層目が厚くなり、ミドル層を取り込んでいます。

この兆候は非常に顕著になっており、「スマホで視聴するライトユーザー」と、「映画館に足を運びグッズも買うコアユーザー」という二極化が進んでいくでしょう。

このようにユーザーのモチベーションには階層があり、それが時代の変遷とともに変化していきます。

ちなみに、これは他の業界も同じです。例えば音楽業界を例にすると元々は「CDを買う」層が一番下で、その上は「ライブ、フェスに行く、グッズ買う」層という2階層しかありませんでした。

しかし、YouTubeやサブスクリプションサービスが登場したことにより、CDを買うという層の大部分がそちらへ移行し、階層が3層になり、3階層目が厚くなることで2極化が進んでいます。

——動画配信サービスの登場は、映画業界へどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

今井:映画業界では映画配信サービスへの反応が変化しつつあります。

例えば、今までアカデミー賞では映画館で放映された映画だけを対象としていました。

しかし、現在はNetflixのように映画館で放映されない動画配信系映画も対象にするかどうかで意見が割れています。

その転換点となる出来事が、Netflixが制作・配信した『ROMA』のアカデミー賞受賞です。

この作品が第91回アカデミー賞の作品賞をはじめとする10部門にノミネートされ、監督賞など3部門を受賞したのです。

スティーブン・スピルバーグ監督は「ストリーミング作品はテレビ映画であり、オスカー受賞には値しない」という持論を示したことがありますが、彼が審査員を務めるアカデミー賞が賞を贈っていますし、スティーブン・スピルバーグが率いる製作会社アンブリン・パートナーズが、米ストリーミング大手のNetflixとパートナー契約したことは話題になりました。

クリストファー・ノーラン監督も、動画配信に対して否定的でしたが、彼の作品である『TENET』はNetflixで視聴できます。

このように、映画の制作側も動画配信サービスへと歩み寄りはじめています。

さらに、コロナ禍が追い風になり映画館ではなく動画配信サイトで配信されたものをテレビやスマホで視聴することがスタンダードになりつつあります。この動きは今後さらに加速していくだろうと考えています。

 

——動画配信での視聴がスタンダードになることで、映画業界ではどのような変化が起こると考えられるのでしょうか?

今井:動画配信で映画を見るようになると、映画の作り方も変化すると考えています。
動画配信サービスで映画を配信する時代になったことで、映画の最中でのユーザーの離脱率が非常に上がったという話を聞いたことがあります。

これは映画館という視聴環境と動画配信という視聴環境の離脱のハードルの差を表しています。

映画館であれば、お金を払って約2時間席に固定されます。どんなにつまらないシーンが30分あろうと、途中で席を立つのはハードルが高いでしょう。

 

しかし、動画配信サービスで視聴した映画の冒頭30分が説明的で退屈なものであれば、すぐに離脱してしまいます。極端な話30分どころか1分でもテレビのチャンネルを変えるように離脱されることが起きうるでしょう。

離脱のハードルが下がったことで、はじめの1分でユーザーの心を掴まなければ、すぐに離脱されてしまうということが起きるようになっています。

特にサブスクリプションのように定額制であれば1つの映画をみることにコストが発生しないため、スイッチングが早くなります。

そのため、これからの映画はコンテンツの立ち上がりの部分にフォーカスして離脱を防ぐことが重要になるのではないでしょうか。

はじめはつまらないけれど徐々に面白くなっていく映画より、はじめから最後までずっと面白い映画が評価されていくのではないかと感じています。

そして、それによって起きるもう一つの事象がシネマノーツ立ち上げのきっかけとなった、「映画を見終わった後の感想」の必要性です。

 

——シネマノーツの立ち上げのきっかけとなったというと?

今まで以上にライトに多くの映画を見れるようになったことで①見終わった映画の総数が増える②どの映画を見るのかという見る映画を選択するという行為が少なくなるということが起きると思います。

この二つの事象によって、映画を見る前の人よりも映画を見終わった人の数が相対的に増えていき、結果的に「見る前の映画の事前情報」を知るというニーズが、「見終わった後に映画の内容を振り返る、分からない点を確認する」というニーズに移行していくことになるだろうと考えています。

これがシネマノーツの掲げる「見終わった映画の意味や解釈を調べる」というコンセプトを生み出すきっかけとなりました。

動画配信サービスの登場は映画業界にとってデメリット?

——動画配信サービスでユーザーは手軽に見られる一方で、映画業界としてはデメリットがあるということでしょうか?

今井:デメリットではなく、求められるコンテンツが変わり、最適化されていくということです。

例えばマンガでいえば、従来の紙の本では本を開く作業があります。マンガプラットフォームが登場した当初はこの「本を開く」UIを重視していました。

しかし現在最適化されているプラットフォームは、縦スクロールだけでページングがなく、文字もデバイスサイズに合わせて調整されるという最適化が行われています。

マンガというコンテンツ自体は変わらないが、配信方法は紙やスマホに合わせて最適化されているのです。

映画も、今は映画館に特化したコンテンツの形になっています。しかし、今後は配信プラットフォームにあわせてより最適化されていくのではないかと考えています。

『ハリー・ポッター』シリーズというコンテンツ自体は変わらないけれど、映画館の他にスマホでの配信に最適化した縦長の映画ができるかもしれないということです。

もちろん、全部ではなくコア層向けのものはある程度残っていくでしょう。

一方で、ライト層に向けた映画コンテンツはスマホやテレビでの視聴に特化した、立ち上がりから面白い構成のものや縦配信への対応といった変遷をしていくのではないかと考えています。

映画業界におけるデジタルマーケティング

——映画業界でデジタルマーケティングによってもたらされる効果や実施した方が良いのはどのような施策は何でしょうか?

今井:ユーザー層が二極化していく前提で考えると、上・中・下ではなく上・下に二極化していくため、二軸での考え方が必要でしょう。

1つは下層のユーザーをどう上層へアップセルしていくかという軸。そしてもう1つは新規獲得という、そもそもの母数を大きくする軸です。

デジタルマーケティングでは、この2軸のどちらに対しても働きかけることができます。

 

新規獲得でいうと、重要なのがPR・SNS・SEO対策です。

コロナ禍ということもあり、ユーザーのインターネットとの接触時間が長くなっています。

その分、看板広告や電車広告といったオフラインのSP広告よりも、デジタルマーケティングの持つ意味合いは広告全体としても増しているのです。

また、SEOの観点でいえば「ホラー映画」で検索する人に対し、検索した際におすすめのホラー映画として上位表示させることができれば新規ユーザーを獲得できるでしょう。

 

アップセルであれば、SNSのロイヤリティ醸成の役割が非常に大きいと考えています。

SEOではロイヤリティの醸成が難しく、下層の人を上層へ上げる動きが難しいでしょう。SNSであれば、顧客との関係のナーチャリングが実現できます。

このように、デジタルマーケティングでは新しく映画を知るユーザーを増やすことも、知ったユーザーがより映画を好きになりグッズを購入する動きを取らせることもできると考えています。

——映画を取り巻く環境は変化していますが、それはコンテンツそのものにも影響するのでしょうか?

今井:デジタルマーケティングを行う上で「コンテンツは不変のものとして存在している概念だ」という考え方が重要だと思います。

映画というコンテンツは、映画館・テレビ・スマホというように、配信プラットフォームの選択肢が増えています。

メディアという枠組みで捉えた時に、メディアはあくまでもプラットフォームであり、その中にコンテンツという概念があるのです。

映画もマンガも、DX(デジタルトランスフォーメーション)化、コンテンツのデジタル化が進んでいます。

 

映画はフィルムからデータになって動画配信される。マンガは紙だったものがデータになってKindleで読める。

音楽はレコードからデータになってYouTubeなどで聞ける時代です。

こうしたコンテンツのDX化は、移行スピードに違いはあれどどの業界も同じような推移を辿っています。

 

ただし、コンテンツ自体は不変のものです。プラットフォームの盛衰は時代にあわせてありますが、50年前だろうが100年前だろうがコンテンツの魅力は変わりません。

例えば、歌舞伎は江戸時代から続いていており、今でも舞台で見るのが主流です。

 

しかし今後CGの3Dレンタリングができるようになり、机の上で歌舞伎が3Dで見られるようになれば、舞台というプラットフォーム以外に3Dのプラットフォームができるでしょう。

そしてそれにあわせた新しい広告手法ができるのではないでしょうか。

時代によって流行り廃りはあっても、コンテンツは今後も中心にあり続け、それを囲むメディアは変わっていきます。

そのメディアを囲むように広告があり、外側から順に変わっていくのではないでしょうか。

最後に


今回は「映画」というコンテンツの過去と未来を、メディア・デジタルマーケティングの視点でご紹介しました。

映画を取り巻く環境が変化する中で、デジタルマーケティングの担う役割や効果も変化しています。

映画マーケティングでデジタルマーケティングを効果的に取り入れたい方や、デジタルマーケティングについてもっと知りたいという方はぜひ一度Wediaにご相談ください。

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