SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)はアパレル業界で取り入れられている手法です。
アパレル業界を牽引しているユニクロやワールドなど、企業戦略として大成功している企業が導入しています。
この記事では、なぜSPAがアパレル業界にとって有利なのか、そのメリットとデメリットをみてみましょう。
また、SPAに成功した導入企業例や、実際にマーケティングを行うにあたっての今後の課題もご紹介します。
目次
SPAの特徴
SPAの最大の特徴は、企画・マーケティングから商品が末端の顧客に届くまで、自社製品を自社の小売店で販売することです。
これにより、大幅なコスト削減といち早く顧客のニーズを捉えて即応できます。
従来のアパレル業界では、製品の企画→生産→仲買人→小売り販売と細かく工程が分かれていました。
そのため、消費者の望むものと企画に乖離が生じたり、中間業者へのコストが増大するなどの問題がありました。
SPAの導入により、これらの問題を解消し、コストを抑えて効率良くニーズにあった商品の提供を実現しているのです。
SPAの企業戦略を取っているユニクロは、日本を代表するアパレルメーカーとして成長を遂げています。
今では「アパレル業界で成功しているところは必ずSPAを導入している」とさえいわれるようになりました。
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SPA企業の種類
注目されているSPAですが、それを取り入れているのはアパレル業界だけではありません。
企業成長を続けている家具メーカー「ニトリ」もSPAを導入しています。
一方で、アパレル業界のように、「流行・世代間の価値観が多様」な業界では、何よりも「顧客ニーズに即応する」速さが何よりも重要です。
このように、SPAにも種類があり、そのうち主なものは「業界縦断型」と「Fast Fashion型」の2つに分けられます。
それぞれの特徴をみてみましょう。
業界縦断型
先ほど紹介したように、「ニトリ」でもSPAを導入しています。
ニトリは、企画・マーケティング・物流・販売に至るすべての工程を自社で回していて、顧客のニーズである「圧倒的な安さ」を実現しています。
製造と小売りだけでなく、物流・IT分野・買い付けなど一貫してすべてを自社で賄う、これが業界縦断型です。
顧客のニーズから逆算して最適なルートを選び、顧客の満足を実現させた典型例といえるでしょう。
Fast Fashion型
SPAの代表的なモデルとして、Fast Fashion型が挙げられます。
一般的なアパレル業界では2年ほど前から今期に流行するトレンドカラーや生地、スタイルを研究し流行を作ります。
Fast Fashion型企業が取り入れているのは、流行が確定して流行り始める段階で素早くそのスタイルを取り入れて製造し即店頭に並べる手法です。
このやり方では、展示会を行ったりファッション誌へ広告打つなどの手間とコストを省けます。
それにより価格を抑え、顧客のニーズに素早く対応するなどの利点があり、店舗内の商品の鮮度を常に保てるなど注目を集めています。
この手法を取り入れているのは、スペインのZARA、日本のハニーズなどです。
D2Cとの関係性
D2Cはさらに一歩進んだ、より深い顧客との関係性を保つことで新しいビジネスモデルを構築しています。
順番的には、SPAの先にある「生産者と顧客との一体化」がD2Cでは実現されているのです。
SPAが求めるものは、顧客との距離を縮めるとともに効率性と即応性を備えることです。
D2Cでは「顧客を会社の中に取り込み、一緒に製品を作り上げ、一緒にコミュニティを育てていく」ということをコンセプトとしています。
D2Cは「消費だけでなく、ライフスタイルそのものを顧客とともに変えていく」というよりダイナミックなものです。
「一緒にブランドを作り上げ、生涯を共にし、ライフスタイルコミュニティを広げていく」という長期的な双方向性を保っています。
D2CはまさにSNS・メールマガジン・ECなどの普及を背景に急成長を遂げているのです。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
SPAの行う工程・企画
SPAでは、企画・プロモーション・小売りをすべて自社で賄います。
その間さまざまな工程を管理し、常にフィードバックしていかなければなりません。
製造から消費までの距離が短いSPAにおいて、企画から消費に至る工程での特徴を解説します。
ユーザーに選んでもらうこと
製造側と顧客の距離が近い、といってもまずはユーザーに自社を選んでもらわなければなりません。
この点はマーケティングでとても重要であり、企画段階からユーザーの需要を十分に吸い上げてそれに応えることが必要です。
ユニクロではその土地での最重要店舗を「旗艦店」と名付け、日本では東京の銀座に旗艦店を設けています。
旗艦店においてユニクロのコンセプト・ブランドイメージ・ライフスタイルへの提案を前面に押し出しています。
これは従来のアパレルが行っていた「展示会」や「ファッションショー」などで自社のブランドをアピールすることと同義です。
顧客は旗艦店を訪れることでブランドを知り、親しみを覚え、自分のライフスタイルに取り入れて消費する仕組みになっています。
旗艦店では内装や店舗そのものが自社ブランドの「体験空間」になっています。
そこで顧客に「自社のブランドを選んでもらう」という企画からプロモーションまでを完結させているのです。
大胆な吹き抜けや内装を贅沢に凝らし、店舗体験を重ねてもらい顧客を呼び込む、という優れた戦略といえます。
ユーザーの満足度
SPAでは生産側と消費者の距離が近いため、ユーザーの満足度を吸い上げることも容易です。
従来のアパレル業界では、企業と顧客の間にバイヤーと小売りという中間業者が入るため以下の点が把握しづらい状況でした。
- どの年代の層が
- どのような商品を好み
- どのような予算で買いたがっているか
これらが把握できないことで、在庫を多く抱えることになったり、売れ筋の商品の生産が間に合わないという事例が発生しがちでした。
その点、SPAを取り入れることによってユーザーの需要を的確に吸い上げつつ生産を自在にコントロールして商品を投入できます。
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SPAのメリット
SPAのメリットは数多くあります。
それでは、どのようなメリットがあるのかみてみましょう。
ニーズを的確に把握できる
今の季節にどんなものを人が好み、どんなものが流行になっているのか、ニーズを完全につかみ切るのは難度が高いものです。
アパレル業界では常にこの課題解決のために、ショーや展示会・広告・ショーウインドウに技巧を凝らすなどのあらゆる努力をしています。
また、流行を前もって作り出し、顧客をそちらに誘導する手法が長く行われてきました。
アパレル業界がSPAでビジネスモデルを構築した際、流行を「作る」よりも「どこよりも早くキャッチアップする」方向にシフトしたといえます。
流行を作るには下準備に2年かかるといわれます。
しかしキャッチアップ方式なら、流行り始めたころに素早くその商品を投入するという手法が可能です。
最短では1か月ほどで最先端に追いつきむしろ追い越すことができるでしょう。
さらに週単位で商品を常に新しいものに入れ替えることができます。この点はとても大きなメリットです。
リーズナブルな価格での製造
生産側が大きな悩みとして抱えがちなのが「価格設定」です。
いくら気に入った商品でも「価格」が問題となって購入をあきらめることは、消費者にとって珍しいことではありません。
一方の生産者は、「良いものならば顧客はついてきてくれる」と思ってしまいがちです。
特に自社ブランドに自信がある場合は価格設定においてさほど注意を払わないこともあります。
アパレル業界の場合、生活に密着し、消費が日常的になることから、顧客は他の商品に比べて「価格」にシビアになりがちです。
SPAでは中間業者の仲介を省くことによりコストを大幅に削減できます。
それによって常にリーズナブルな価格で商品を提供できることが、最大の強みでありメリットの1つになっています。
売れ行きの変化などにすぐ対応できる
小売業界を常に悩ませていたのが「在庫の調整」です。
想定以上に在庫を抱えたり、売れ筋なのに生産が追い付かないという問題を抱えてしまいがちです。
SPAでは、顧客の欲するものをいち早く把握し、店舗に展開することができます。
増産をかける、在庫を適切に処分する値引きなどもすぐに判断できるため、販売機会の損失を防ぐことができるでしょう。
また、消費者にとっても値下げや欲しいものがいつでも揃っていることは高い満足度に繋がります。
SPAのデメリット
SPAはメリットが目立ちやすく、実際このビジネスモデルで大躍進した企業が多いことから、メリットばかり強調されがちです。
しかし、デメリットももちろんあります。
デメリットから目をそらさず受け止めておくことで、ビジネスモデル構築が一層堅固になります。
企画・生産がすべて自社の責任となる
最大の長所は最大の弱点になりうることは、どの業界、どのビジネスモデルでも同じことです。
SPAによる大きな利点である「すべてを自社で賄う」ことは、一般的な企業にとってとても荷が重く、途方もない作業に映ることでしょう。
どんな製造過程でも、過程を細かく分業化しておけばいっそう効率が上がります。
しかしSPAではむしろ逆で、今までたくさんの企業が携わっていた作業をすべて一社で賄うという責任の重さを負うことになります。
また、企業規模によっては初期投資や作業の膨大さに一歩を踏み出せない、という問題もでてくるでしょう。
商品開発の手間やコストがかかる
すべて自社で賄うということは、以前は外注に任せていたその分野を一手に任せられる人材を自前で揃えなければならない、ということです。
特に商品開発において、スペシャリストは容易に確保できるものではありません。
多岐にわたる商品の特質を把握し、流行を常にキャッチアップすることが完璧にこなせるような人材の育成にかかるコストは膨大です。
そのコストをかけるくらいなら外注で済ませるというのが従来のアパレル業界のスタンスでした。
SPAが現在行っている「自社製造、自社販売」は、これらの難関を乗り越え業績を上げています。
しかしこれらのデメリットは新規参入を考える企業を大いに悩ませる課題であることは間違いありません。
SPAの課題
続いて、SPAにおける今後の課題について詳述します。
SPAは業界に旋風を巻き起こし、着実に業績を伸ばしてきましたが、マクロの視点で見て多くの課題を抱えています。
それらの課題の解決方法を常に模索することで、一層SPAの利点を生かし、課題をうまく乗り越えることができるでしょう。
商品の同質化が進んでしまう
SPAを導入したブランドの商品が同質化してしまうことは、一般の消費者にとっておなじみの光景です。
SPAでの最大の長所は「顧客のニーズに即応する」という点です。
しかしそうすれば「みんなが欲しいものはこの色・生地・デザイン」というテンプレートがすぐに出来上がってしまいます。
各社が競ってその方向へ一斉にダッシュしてしまうのです。
どこへ行っても同じような商品ばかりと消費者が感じるのは、多くの消費者のニーズに企業が応えようとした結果でもあります。
「同質化」を防ぐための明確な筋道を立てること、SPAを導入しながら他との差別化をいかに図るかが、今後のSPAの最大の課題です。
価格競争へと発展する
商品の同質化が進むこととほぼ同時に起きるのが「価格競争」です。
デザインも品質も同じような商品があって、では顧客がどちらのブランドを選ぶか、となると、やはり「価格が安い方」になります。
過度な価格競争をやめたくても、商品が均一化・同質化してしまっているため、どうしても価格競争に巻き込まれざるを得ません。
SPAがアパレル業界を席巻して何十年か経った今、この課題が表面化してきました。
課題を解決する方法としては、数値化しにくい要素に力を入れる、という方法があります。
例えば「この人から買いたい」と思わせる「販売員の力」や、お店の雰囲気が好き、といったファンを作る方法です。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
代表的なSPA導入企業
ユニクロ・ニトリ・ZARAなどの代表的なSPA企業のほかにも、SPAを導入して躍進している企業を紹介します。
ユニークで革新的なSPA導入企業を厳選しました。
例1・JINS~メガネ業界の「ユニクロ」を目指す
JINSがSPAを導入してブランドを展開し始めたのは、2001年です。
メガネは高く、売り場がおしゃれでなく、商品を受け取るまでに時間がかかる、という問題点を抱えていました。
その問題を解決すべくSPAを導入し、現在日本で最大の40%以上のシェアを獲得しています。
SPA導入当初から、「メガネ業界のユニクロを目指す」とスローガンを掲げ、メガネ業界のSPAの先駆けとなりました。
メガネの価格がここまで下がったのは、JINSのおかげである、と評価を得ています。
例2・SPA型ホームセンターを目指す~カインズ
アパレル業界でSPAが大成功しているのを受け、ホームセンターでもSPAを導入する動きがあります。
それが、ホームセンターの大手チェーン「CAINS」です。
主軸にプライベートブランドを置き「コストを下げて品質を上げる」「商品よりライフスタイルを売る」ことに重点を置いています。
暮らしのテーマで訴求して顧客のニーズに応えるなど、SPAを取り入れつつ独自性も打ち出す試みが成功途上にあります。
SPAの導入に困った時は?
SPAは主にアパレル業界で活用されている手法ですが、カインズのように他の業界であっても活用できます。
しかし実際に自社で導入しようと思ってもどのように取り入れれば良いか迷うという人も多いことでしょう。
自社の事業の性質とSPAの相性がよいかどうかも考えるべきです。
それらを自社内で検討してもまとまらない、という場合は専門家に相談することをおすすめします。
マーケティングの専門家であるコンサルタントは、客観的で的確にアドバイスをくれる存在です。
SPAを効果的に取り入れたいと検討しているのであれば、ぜひコンサルタントへ相談してみてください。
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まとめ
SPAについていろいろな角度から述べてきました。
業界を席巻しつつあるSPAですが、一方でより差別化・個別化を進めるD2Cも広がりを見せています。
将来的には、SPA的な均一・安価・即応の企業と、D2Cによる個別化・オーダーメイド化・コミュニティ化の二極が進む可能性もあります。
ライフスタイルの多様化に伴う一層便利で豊かな消費生活の実現に向け、これからも注目していきましょう。