マネジメントはマーケティングと切っても切れない関係にあります。
マーケティングが成功して上手く利益を出せても、その後にも同じように生かすことが出来なければ一度きりの成功で終わってしまいます。
そうなれば、結果的に後から損をすることになってしまうでしょう。
それを回避するためにもマーケティングを行う際は同時にマネジメントにも取り組まなければなりません。
ナレッジマネジメントは成功したマーケティングを次に生かすためのマネジメントの手段の1つです。
この記事ではナレッジマネジメントの役割や特徴、成功事例などから、ナレッジマネジメントを成功させるためのポイントを紹介します。
目次
ナレッジマネジメントの役割や重要性
ナレッジマネジメントは、暗黙知を企業全体で共有して活用するという経営管理方法のことをいいます。
簡潔にいうと中小企業でよくある「この仕事はこの人しか知らない」をなくすための管理方法です。
暗黙知とは個人の社員や企業組織単位で蓄積されたマニュアル化されていない知識や情報・ノウハウのことです。
終身雇用の時代はベテランの社員から新人社員への教育という暗黙知を一社員同士で共有していけば成り立っていました。
ですが昨今は大企業であるトヨタですら「終身雇用を継続することは難しい」と社長自ら発言する時代となりました。
知識やノウハウを持つ社員がいつ辞めるか分からない状態なのです。
その中で、暗黙知の伝達だけだと社員一人が辞めただけで現場が大混乱に陥る可能性もあります。
それを防ぐためにも企業はその大小に関わらず、ナレッジマネジメントを取り入れることが重要になってくるのです。
マーケティング戦略の事例はこちら
SECIモデルの特徴
ナレッジマネジメントの基本となる理論がSECIモデルです。
SECIモデルは一橋大学の経営学者である野中郁次郎教授が提唱した、ナレッジマネジメントを行う際の基礎理論となるものです。
SECIモデルには以下の4つのプロセスが存在します。
- 共同化(Socialization)
- 表出化(Externalization)
- 連結化(Combination)
- 内面化(Internalization)
これらを回していくことで暗黙知を形式知(企業全体で共有している知識や経験)に変換して循環させ、経営に活かしていきます。
SECIモデルのプロセス
それではSECIモデルのプロセスを具体的にみてみましょう。
共同化(Socialization)
共同化は個人の知識である暗黙知を複数人に体験を通して伝えるプロセスです。
個人の知識やノウハウを個人に伝える、一般的に行われている個人間の知識の共有に当たります。
職人間で行われる「技は見て盗め」もこれに該当するものです。
明確にマニュアル化されているわけではなく、同じ業務でも個々人によって差がある場合があります。
表出化(Externalization)
表出化は暗黙知を形式知として伝えるプロセスです。
共同化によって得た知識やノウハウを図や表に表すなどしてマニュアル化します。
この表出化がSECIモデルにおいて最も重要です。
このプロセスで自身の蓄積したノウハウを言語化し、第三者でもマニュアルを読むだけで理解して実行できるようにします。
それにより知識の属人化を解消し、新たな知識の創造につながるステップとなるからです。
連結化(Combination)
連結化は形式知と形式知を組み合わせていくプロセスです。
表出化でバラバラに作られた形式知を組み合わせていくことで新たに1つの形式知がうまれます。
そうして体系化されることで新たな視点を取り入れることができ、より多くの知識創造へと繋がります。
内面化(Internalization)
内面化は連結化された形式知を暗黙知へと落とし込むプロセスです。
形式知を社員1人1人が習得し、実際に行うことで新たなムダや効率のいい方法の発見に繋がります。
ここで得た知識やノウハウが暗黙知となり、それがまた新たに共同化されていくことでSECIモデルは循環します。
このようにナレッジマネジメントの基礎として実行されていくことになります。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
ナレッジマネジメント導入で得られる効果
ナレッジマネジメントを導入し、SECIモデルに従って知識やノウハウを共有することができれば以下の効果が期待できます。
- 生産性の向上
- 競争力の強化
- 業務の属人化防止
それぞれの効果について軽く解説していきます。
生産性の向上
ナレッジマネジメントを活用すれば生産性の向上が期待できます。
例えばある部署で社員の新人教育の期間が従来の半分で済んだ場合、このノウハウを他部署に共有しなければ企業にとって損となります。
仮にその部署特有の業務にしか活用しづらいものに見えても、社内全体に共有することで新たなノウハウが誕生するかもしれません。
また、店舗経営や工場のような画一化しやすい業務であれば、成功例を横展開することでさらに効果は期待されます。
このようにしてナレッジマネジメントの活用は生産性の向上に繋がるのです。
競争力の強化
ナレッジマネジメントは企業競争力の強化にも繋がります。
暗黙知から形式知へと変換して企業全体に行き渡らせることで、社員1人1人の業務効率が上がります。
業務効率が上がってノウハウの蓄積が繰り返されていけば、それが企業の持つ独自性となり、企業全体の成績アップへと繋がるでしょう。
独自性を追求した結果としては、作業効率を大幅に改善したトヨタ式が例としてあげられます。
業務の属人化防止
ナレッジマネジメントが進めば業務の属人化防止が期待できます。
例えばクレーム対応に関してあらかじめ予測されるクレームを共有しておけばクレーム発生時にかかる手間を大幅に軽減できるでしょう。
また、実際に発生したクレームを形式知として共有することでそもそものクレームの減少にも繋がります。
具体例としては、発生したクレームをまとめてQ&Aを設けるという方法があります。
この方法であれば顧客自身で解決してもらうことができ、クレームに繋がらなくすることも可能です。
こうしてナレッジマネジメントで形式知を増やしていくことは業務に係る人員を削減することが出来ます。
ナレッジマネジメントの成功事例①:富士ゼロックス
では実際にナレッジマネジメントで成功した企業の前例について3つほどご紹介していきます。
まずは富士ゼロックスについてです。
課題:製品開発の最終段階での仕様変更による開発期間の遅延
富士ゼロックスではよりユーザーに近い視点を反映させた製品の製造を行うため、後工程の担当社員に意見を出させていました。
しかし、その意見を反映させるためにはプロトタイプもしくは製品完成まで待つ必要がありました。
そのため製品ができた後に仕様の変更が行われることになり、開発の遅延が発生する結果となっていました。
設計の初期で全担当者が情報共有し意見を出す「全員設計」
その問題点を改善するために生まれたのが設計の初期から全担当者が情報共有し意見を出す「全員設計」です。
今までプロトタイプ完成後に行われていた暗黙知の交換を、設計段階からそれぞれの部署の担当社員が訪問して行うようになりました。
集められた知識やノウハウをまとめるために、Z-EISと呼ばれるオンライン上の設計情報共有システムの作成が行われます。
しかし共有した知識は全員に必要なわけではないため、各工程で優れていると上司が判断したものだけを特定して共有するようにしました。
そしてこれらのノウハウを実際に活用できるように品質確立リストとしてまとめ上げたものを現場に適応させたのです。
このようにして富士ゼロックスはSECIモデルを活用してナレッジマネジメントのサイクルを回しました。
これにより「知の創造と活用をすすめる環境の構築」という理想を実現したのです。
マーケティング戦略の事例はこちら
ナレッジマネジメントの成功事例②:NTT東日本法人営業本部
NTT東日本法人営業本部で行われたナレッジマネジメントも成功事例の1つです。
この事例では職歴・技術・知識・年齢・性別の異なる様々な人との出会いのが新たな創造がうまれるという意図の元で実行されました。
課題:社員の作業効率やコミュニケーションの欠如
当時本部社員だけで1,600名の社員を抱えていたが異なる人々の様々な出会いを実現しようとしました。
しかし、従来の決まった机に向かうだけ、決まった人とのやり取りしかやらないオフィスではコミュニケーションが足りず不可能でした。
コミュニケーションが足りないことで社員の作業効率も落ちていくのを改善するという課題を抱えていました。
「リアル」と「バーチャル」の両方からアプローチ
課題を解決するために行われたのが「リアル」と「バーチャル」の両方からのアプローチです。
まず「リアルな場」の提供ではオフィス・レイアウトを新たにデザインしました。
「バーチャルな場」では社員個人単位から課、部、本部のホームページを作成します。
「リアルな場」は以下の4つのゾーンに分けられています。
- ベース・ゾーン
- クリエイティブ・ゾーン
- コンセントレーション・ゾーン
- リフレッシュ・ゾーン
ベース・ゾーンは社員にノートPCや携帯電話、ワゴンを与えることで個人の机を固定せずに仕事ができる場です。
それにより、新しいチームの編成やプロジェクトチーム間での情報共有をスムーズに行えるようになりました。
また、座席に指定がないことで偶然の出会いを促進する効果も狙うことが出来ました。
クリエイティブ・ゾーンではプロジェクトチームが集まって対話することで新たなアイデアを創造する場として使われます。
窓側にあり、開放的で座席人数も都度変更できるようになっています。
コンセントレーション・ゾーンは静かな場で個人で業務に集中するための場です。
パーテーションで区切られており、システムデザインや提案書作成など黙々と作業するのに向いています。
リフレッシュ・ゾーンは喫煙室や雑誌、ドリンクコーナーなどが用意された場です。
1人でゆっくりしたり、異なる人々の出会いの場としての役割もあるインフォーマルな場になっています。
そして「バーチャルな場」では全ての社員が個人のウェブサイトを与えられました。
その人の仕事の履歴・現在のプロジェクト・営業日誌などの業務関係のことだけでなく、個人の趣味などもわかるようになっています。
個人だけではなく課や部もホームページを持っており、それぞれで保有している知識を他部署も共有することができるようになっています。
ナレッジマネジメントの成功事例③:東京海上アシスタンス
東京海上アシスタントのナレッジマネジメントは、業務のマニュアル化と情報の体系化に成功した事例です。
どのように実行されたのかみてみましょう。
課題:社員が初めて行う業務で手順がわからない
多くの社員を抱える会社である限り避けられないのが休職や退職といった急な人欠、異動での担当変更による立ち上げにかかる時間です。
東京海上アシスタンスも同様の問題を抱えており、そのリスクを無くす仕組みを作って社員の異動に強い体制を作ろうとなりました。
また、当時800人のオペレーターに対して120人のスーパーバイザーが在籍していました。
企業で抱える情報が管理されていませんでしたが、熟練者は経験からどこになんの情報があるかはわかっていました。
しかし、経験の浅い人ではそれが十分に分からず時間がかかっていました。
全業務のマニュアル化と情報の一元管理化
重要な第一歩として行われたのが部署ごとの業務の洗い出しとその文書化です。
それをマニュアル・手順書・チェックリストの各業務に関してそれぞれフォーマットを同一化しました。
その同一基準でカテゴリ分けして共有するというものです。
それにより、業務を始めるに当たって必要な情報をすぐに取得して慣れない業務でも取り掛かりやすくしたのです。
これによって情報の取得の差がなくなり、誰でも必要な時に必要な情報を取り出せます。
それによって対応品質の均一化をするために情報を整理して一元管理化を実現しました。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
ナレッジマネジメントを成功させるポイント
これまでにご紹介した成功例をまとめると以下の3つのポイントがあります。
- 自社の課題の明確化
- 課題を社内全体で共有する
- 実際に働く社員にとっての利便性
成功する鍵としてまず大事なのは課題が明確であることです。
ナレッジマネジメントが流行っている、情報をまとめたら便利だからやってみようのようになんとなくで始めると失敗します。
明確に、なぜこの課題を解決しなければいけないのか、この課題を解決すればどんな利点があるかを明確にする必要があります。
また、課題と解決のための情報がどうして必要なのかを含めて社内全体で共有しましょう。
さらに、改善することでどんな利点が得られるのかも社内全体で共有することが大切です。
社内全体で共有できなければ、現状問題なく働けている社員にとってはマニュアル化をすることは手間に感じてしまう可能性があります。
どんなに社長や上司が素晴らしい理念、創造性を持ってナレッジマネジメントに取り組んでいても実際に使用して働くのは社員です。
社員にとって使いやすく、便利にならなければ誰も使わずに宝の持ち腐れになります。
情報をまとめても見にくく参照しづらければ何も変わりません。
部下にとっても使いやすもの、便利になるものであるかどうか、それも事前に検討が必要です。
ナレッジマネジメントで困ったときは?
ナレッジマネジメントは業務の効率化によって企業成長にも繋げられるものです。
導入することで円滑な組織運営が可能になることも期待できます。
しかし導入の仕方によっては社員が煩雑に感じてしまい、うまくいかないということも考えられます。
期待できる効果を得るのは工夫が必要です。
ナレッジマネジメントの方法を検討する際、コンサルタントに相談することで新しい方法を見つけることもできます。
ナレッジマネジメントの実施方法で悩んだら、プロに相談してみましょう。
マーケティング戦略の事例はこちら
まとめ
本記事ではナレッジマネジメントの重要性や得られる効果、SECIモデルについて解説しながら実際の成功例もご紹介しました。
今までの働き方では暗黙知の継承だけで上手くいっていました。
ですがネットの普及、データ通信の高速化が進んでいくことで家にいても仕事ができるまで働き方が多様化しています。
ナレッジマネジメントでノウハウを共有することは、個人の知識の棚卸しにもなります。
自分の成長にも繋がり、企業全体のレベルアップに繋がる重要なプロセスです。
ナレッジマネジメントをうまく活用して、より働きやすい企業を作っていきましょう。