働き方改革が少しずつ進んできたことで柔軟な働き方を許容できる社会環境が整ってきました。
そのため自分の新しい可能性や生きがいを求めて、副業を営んだり起業を考えたりしている人たちが増えています。
合同会社はアメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルとして日本に導入されました。
会社設立の際の費用が低く抑えられ、迅速な意思決定がでるなどスタートアップに最適な会社形態といえます。
今回の記事ではそんな合同会社で起業するメリット・デメリットに関して詳しく解説します。
成功事例や合同会社設立の際にかかる費用・設立までの流れについてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
合同会社の考え方
合同会社はアメリカのLLCをモデルとして導入された会社形態で、ヒエラルキー組織の株式会社とは違った概念の組織体です。
この項目ではまず日本における会社組織の形態について触れ、合同会社の考え方や定義について詳しく解説します。
会社設立には4つの形態がある
日本の会社の形態には以下の4つの形態があります。
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
会社法はこの4形態のうち合同会社・合資会社・合名会社の3形態をまとめて「持分会社」と称して「株式会社」と区別しています。
株式会社の多くは比較的規模の大きな事業を展開することを目的とし、投資家から資金を集めます。
実際に経営するのは役員であり、出資者(株主)は会社を所有するのみで、経営そのものに携わることはありません。
一方、持分会社では特定の人が集まって資金を出し合い、出資者全員が利益配分や会社経営などの決定権を持ちます。
基本的に社員全員が代表権と業務執行権を持っていて、しかも1人1票で同等の権限を有していることが基本となっています。
合同会社の定義
合同会社は、2006年5月1日に施行された新会社法によって設けられた新しい会社の形態です。
アメリカの事業組織の形態の1つであるLLCがモデルになっていることから日本型LLCとも呼ばれています。
現在アメリカでは株式会社と同じくらい普及している組織形態ですが、日本ではまだまだその認知度は高くありません。
しかし近年では合同会社を設立する動きも増えてきており、2019年には法人設立総数の25%ほどを占めるまでになりました。
合同会社(LLC)は資金を出資して会社の経営も行う「社員」で構成される法人です。
出資者それぞれが出資した金額の範囲で責任を負う「間接有限責任」という形式を取っています。
利益配分は会社への貢献度などに基づいて自由に配分でき、持ち株の比率による配分などは行われません。
経営の自由度が非常に高く、株式会社などでは時間がかかりがちな意思決定も合同会社なら迅速に行うことができます。
株式会社との違いは?
株式会社の合同会社との根本的な違いは所有と経営の分離があるか否かです。
株式会社では株主(出資者)と経営者が分離していますが、合同会社の場合は分離していません。
この特徴により、株式会社は不特定多数の投資家から資金を募って大規模な事業を展開することができます。
株式会社は決算公告義務など厳格な規則が定められていて束縛が強い印象ですが、それだけに社会的な信用も得られるでしょう。
対する合同会社は出資者と経営者が同一です。そのため資金の集め方の点で大きな制限を受けることになります。
合同会社での起業が近年増えている背景
2019年の法人設立総数のおよそ25%が合同会社だったことにはすでに触れました。
合同会社が近年増えてきた背景の1つとして合同会社が持つメリットが徐々に認知されてきたことが上げられます。
メリットとは会社設立にかかる費用の安さ・期間の短さ・登記手続きの容易さ・経営の自由さなどです。
この他の要因として働き方改革で「副業・兼業」が解禁されたことの影響も少なくありません。
加えてインターネットの普及が個人の発信力を高め、個人事業主や小規模事業の誕生を後押ししています。
また厚生労働省は2018年に「モデル就業規則」を改訂し「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の規定を削除しました。
GoogleやAppleの日本法人も合同会社です。それら大企業の選択も合同会社設立の1つの後押しになっています。
合同会社で起業する5つのメリット
近年、会社の設立を合同会社の形態で行うケースが増えていることをお伝えしてきました。
合同会社で起業することには株式会社にはないメリットがいくつもあります。
この項目ではそれらのメリットの中から5つをピックアップしてそれぞれ詳しくご紹介します。
設立費用が安い
合同会社で起業するメリット、1つ目は設立費用が安いことです。
合同会社を設立するために必要な法定費用は定款用印紙代約4万円と登録免許税6万円の合計約10万円です。
しかも電子定款なら収入印紙代が不要になるので実質6万円しかかかりません。
一方、株式会社の場合は設立する時に必要な法定費用は合計24万円以上になります。
やはり電子定款にすることで収入印紙代約4万円を削減できますが、謄本手数料や定款の認証料など他にも費用がかかるのです。
設立費用だけで比べると合同会社の方がはるかにリーズナブルだといえるでしょう。
有限責任で大きなリスクは避けられる
合同会社で起業するメリット、2つ目は有限責任で大きなリスクを避けられることです。
株式会社・合同会社は有限責任を負い、合名会社・合資会社・個人事業は無限責任を負うことが法律で定められています。
有限責任を負う企業の場合、社員は自分の出資した金額の範囲についてのみ責任を負えば問題ありません。
しかし無限責任を負う企業の場合、社員は倒産後の企業の債務について無制限に支払う義務があります。
合同会社が倒産した時、出資したお金は戻ってきませんが出資金額を超えるものについて支払い義務はありません。
どんな事業もやってみるまでは上手くいくかどうか分かりません。挑戦のしやすさは合同会社設立の大きな利点といえるでしょう。
利益分配が自由
合同会社で起業するメリット、3つ目は利益配分の仕方が自由なことです。
株式会社の場合、出資した金額に比例して株主に配当金が配分されることになります。
しかし合同会社の場合は会社への貢献度を評価するなど自由な方法で利益を配分して構いません。
決算公表の義務がない
合同会社で起業するメリット、4つ目は決算公表の義務がないことです。
株式会社の場合は毎年必ず決算公告を行わなければなりません。
決算公告とは定時の株主総会の終了後、会社の定款に示した方法によって財務情報の開示を行うことです。
開示方法は官報、一般時事を扱う日刊新聞紙、電子公告かのいずれかを選んで定款に定めることができます。
合同会社にはこうした義務がありません。
掲載料が安いといわれる官報でさえ決算公告の掲載料金は約6万円かかりますが、合同会社ならこうした手間と料金が不要です。
役員の変更登記が必要ない
合同会社で起業するメリット、5つ目は役員の変更登記が必要ないことです。
株式会社の役員の任期は最長10年と定められており、任期がくれば同じ人が再任されても登記しなければなりません。
また定款の書き換えも必要になり、登記変更や定款の書き換えの手間や費用がかかることになります。
しかし合同会社には代表権や業務執行権をもつ人に任期はありません。変更があった場合は定款の書き換えだけ行えば済みます。
合同会社で起業する4つのデメリット
合同会社を設立することのメリットを株式会社と比較しながら解説してきました。
この項目では同じように株式会社と比べた時の合同会社のデメリットについて4点ご紹介します。
資金調達方法が限られる
合同会社で起業するデメリット、1つ目は資金調達方法が限られることです。
株式会社であれば募集株式の発行によって資金調達をすることが可能です。方法も複数あり、自社の状況に応じて選択できます。
しかし合同会社の場合は国や自治体の補助金・助成金や借入金(融資)を主な資金源とせざるをえません。
資金調達の方法が少ないことは企業にとって大きなデメリットだといえるでしょう。
信用を得にくい場合がある
合同会社で起業するデメリット、2つ目は信用を得にくい場合があることです。
株式会社には決算の公表などの義務があり、株主からの信頼を得るためにも経営はできるだけオープンでなければなりません。
金融機関などから見ても、株式会社なら決算報告書などをチェックすれば経営の状況が分かるので評価もしやすくなります。
しかし合同会社には決算公表の義務がありません。
この点は合同会社のメリットの1つでもありますが、経営の透明性に欠けるなどの理由で信用が得にくい場合もあります。
社員全員が業務執行権を持つリスク
合同会社で起業するデメリット、3つ目は社員全員が業務執行権を持つというリスクの高さです。
株式会社では出資者と経営者は分離していますが、合同会社では出資者と経営者は同一で分離していません。
出資者と経営者が同一である合同会社は、出資比率に関係なく、1人1票の議決権をもって意思決定を行います。
そのため出資者である社員同士で意見の対立が起こると、経営や業務に重大な影響を与える恐れがあります。
ただ、こうしたリスクを避ける方法がまったくないわけではありません。
定款に明記すれば代表社員を1名と業務執行社員を複数名選出することができます。
社員全員の同意が必要
合同会社で起業するデメリット、4つ目は社員全員の同意が必要な場合があることです。
合同会社では以下の様な場合に社員全員の同意が必要です。
- 事業の継承
- 代表社員の継承
- 出資者の権利譲渡
また経営に関する事項では社員の過半数の同意を得なければなりません。
その際、業務執行社員を選出している場合には業務執行社員の過半数の同意が必要です。
合同会社での起業成功事例:合同会社DMM.com
日本の有名な合同会社の1社に合同会社DMM.comがあります。
同社はゲームや動画などを提供するECサイトを運営する企業で、創業20年あまりで2,000億円以上の売上を達成しました。
DMMは2018年頃までは株式会社として運営していました。
しかし形態を変更した方がメリットが大きいと判断し、経営の効率化を図るために合同会社へと組織変更しました。
ランニングコストが安い・決算公告の義務がない・意思決定がスムーズなど、株式会社にはない利点が多くあったのです。
会社の形態は変更することができます。場合によってはそうした決断がDMMのように成功の起爆剤となるかもしれません。
合同会社設立の際にかかる費用
合同会社を設立するために必要な費用には法定費用・専門家に支払う費用・その他の費用の3種類があります。
法定費用は先の項目でもご紹介した登録免許税6万円と定款印紙代約4万円です。電子定款であれば印紙代は必要ありません。
専門家に支払う費用とは設立の手続きを司法書士などに委託する場合の費用です。手続きをすべて自分で行う場合は不要です。
その他、印鑑を作成する必要があったり定款謄本の取得費用がかかったりと細々した出費が見込まれます。
株式会社に比べるとかなり安く設立することができるでしょう。
合同会社を設立する流れ
合同会社の設立は株式会社と比べると必要書類が少なく、手間・時間・費用などの負担が小さくて済みます。
合同会社設立の手順は以下の通りです。
- 合同会社の基本事項の決定
- 印鑑の作成
- 定款の作成
- 資本金の払い込み
- 登記書類の作成
- 登記書類の提出
この項目では合同会社を設立する流れの中でも特に重要な3点について詳しくご紹介します。
定款の作成・認証
株式会社の場合と同じように、合同会社も定款を作成しなければなりません。
定款とは会社の憲法ともいうべきもので、設立の手続きの上で必ず作成しなければならない書類の1つです。
株式会社の場合、定款は発起人全員で作成します。また発起人が署名し、公証人が認証しなければ効力を生じることはありません。
一方、合同会社の定款は社員全員で作成することになります。その際、株式会社と違って公証人による認証は不要です。
資本金の準備
会社の設立登記を行うためには資本金の払込証明書を用意しなければなりません。
ただ、まだ会社設立前であるため合同会社名義の口座はありません。そのため社員のうちの誰かの口座を使います。
用紙はA4を使い、タイトルは「払込証明書」としましょう。
その上で「当会社の設立により、発行する株式につき、次の通り発行価額全額の振込があったことを証明します」と記載します。
資本金の総額、日付、商号、代表社員名を記載の後、押印します。
また資本金は定款が認証された日以降に払い込みをしましょう。
登記
資本金の準備などが済んだらいよいよ登記です。合同会社設立登記申請書は形式と記載内容が法律で定められています。
記載内容は商号・本店・登記の事由・登記すべき事項・課税標準金額(資本金)などです。
登記申請は設立する会社の本店所在地を管轄する法務局で行うべきことが法律で定められているので気を付けましょう。
後から会社の形態は変更可能
先の項目では株式会社だったDMMが合同会社に形態を変えたという事例をご紹介しました。
逆に、必要な手続きさえ済めば合同会社として設立した会社を株式会社に変更することも可能です。
ただし合同会社から株式会社に変更する場合、債権者保護の手続きなどが必要になるため最低でも1か月ほどの期間を要します。
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起業という思い切った行動に出る前に、まずは弊社で一定のキャリアを積んでみてはいかがでしょうか。
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まとめ
いかがだったでしょうか。今回の記事では合同会社で起業するメリット・デメリットを解説しました。
設立コストやランニングコストを低く抑えられるなど、合同会社には数多くのメリットがあります。
社員全員が平等の立場で事業に参加できるので、小規模で始めるには最適の会社形態といえるでしょう。
インターネットの普及やデジタル化の進展が個人や少人数での活躍を後押ししている今、最も相応しい形態だといえます。
今回の記事が合同会社での起業を志す皆様の一助となれば幸いです。