競合他社との競争に打ち勝つ要素の1つが「価格」であることから、コストに焦点を当て提唱されているのがコストリーダーシップ戦略です。
顧客の側からすれば同じ品質の製品であれば、より低価格の製品を選ぶことは、至極当然のことだといえます。
しかし、経営陣からすれば低価格で販売することで「利益が下がるのでは」といった懸念があるのも事実です。
この記事では、コストに着目したコストリーダーシップ戦略のメリット・デメリットに加え、実例・戦略の流れなどについて解説します。
目次
コストリーダーシップ戦略の考え方
コストリーダーシップ戦略とは、その名のとおりコスト面で競合他社を圧倒し、市場をリードするといった戦略です。
アメリカの経済学者マイケル・ポーター氏が提唱した企業戦略の1つであり、他には「差別化戦略」「集中戦略」があります。
したがって、コストリーダーシップ戦略を有効に導入するには、差別化戦略・集中戦略も理解しておくことが不可欠です。
低価格による利益率の低下を懸念する経営陣も少なくありませんが、正しく実践することで十分な効果が期待できます。
コストリーダーシップ戦略の流れ
コストリーダーシップ戦略の流れは、企業によって前後するものの概ね以下のとおりです。
- 市場の決定
- 原材料費の見直し・交渉
- 生産工程の見直し
- 利益額の算定売価の決定
- 生産ラインの決定
まず、理解しておきたいのがコストリーダーシップ戦略は全ての業界・商品・サービスにマッチするものではないことです。
したがって、最初に市場及びターゲットをしっかりと絞り込むことが大切になります。
その上で、現在の仕入れ価格や作業工程において見直し・改善ができる部分を洗い出し、実際に思考することが不可欠です。
なお、利益額の算出においては価格だけでなく、どういったマーケティング戦略をもって販売数をアップさせるかが課題になります。
いずれにしても、コストリーダーシップ戦略は単なる「値下げ」ではなく、利益額をしっかりと確保した戦略とすることが重要です。
マーケティング戦略の事例はこちら
コストリーダーシップ戦略のメリット
コストリーダーシップ戦略は単に低価格競争に打ち勝つためだけの経営戦略ではありません。
適切に導入することで、生産性の向上など様々なメリットが得られるのがコストリーダーシップ戦略の神髄です。
ここでは、コストリーダーシップ戦略を導入することで得られるメリットについて具体的に解説します。
顧客に選ばれシェアの拡大につながる
コストリーダーシップ戦略の大きなメリットは、正しく導入することで顧客に選ばれシェアの拡大につながる点です。
顧客が商品やサービスを選ぶ際において「価格」が大きな決め手となることは間違いありません。
しかし、コストリーダーシップ戦略は低価格競争を仕掛けるものではなく、適正価格において市場をリードする経営戦略だといえます。
したがって、品質を低下させることがあってはならなく、生産工程や原価・利益率の見直しが重要なポイントです。
より良い商品・サービスを提供し続けることで、シェア拡大につなげることがコストリーダーシップ戦略の目的となります。
低コスト実現は自ずと利益向上につながる
コストリーダーシップ戦略の神髄は低コストを実現することであり、自ずと利益向上につながることも大きなメリットです。
利益率を一定のラインでキープしながら低価格を実現するには、コスト削減が必要不可欠になります。
したがって、原材料費や人件費など様々なコストを徹底的に見直し、無駄を見つけ出すことがコストリーダーシップ戦略のポイントです。
ただし、コスト削減にばかり気を取られていると、社員のモチベーションや品質の低下を招く恐れがあることを忘れてはなりません。
効率化につながる
コストリーダーシップ戦略では「無駄なコスト」の削減とともに、生産性の向上が大きな課題でありポイントです。
商品・サービスの低価格を実現するにしても「コスト」だけでは限界があり「無駄」の原因になります。
そこで重要になるのが、各作業工程における効率化であり、能率アップ・作業方法の見直しによる生産性の向上です。
効率化・生産性の向上を図るには、一定の期間・育成にかかるコストが必要ですが、長いスパンで考えると大きなメリットになります。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
コストリーダーシップ戦略のデメリット
コストリーダーシップ戦略はメリットばかりではなく、いくつかのデメリットもあります。
デメリットの大半はコストリーダーシップ戦略の導入方法に問題があるといえますが、事前に把握しておくことで回避が可能です。
ここでは、導入前に知っておきたいコストリーダーシップ戦略のデメリットについて解説します。
過度な価格競争のリスクがある
ここまで紹介してきたとおり、コストリーダーシップ戦略は低価格競争ではありません。
しかし、市場には多くの競合他社がひしめいており、当然価格の上で対抗してくることも考えられます。
過度な価格競争はリスクでしかありません。そこで大切なのが、キープすべき利益率を明確にしておくことです。
また、自社にしかないオリジナリティや付加価値を充実させるなど、価格以外で勝負できる強みを模索することも重要になります。
「安っぽい」イメージのリスクがある
コストリーダーシップ戦略のデメリットは、商品やサービスによって「安っぽい」といったイメージを顧客に抱かせてしまう点です。
例えば、高級化粧品の分野で突如低価格を実現させてしまうと、途端に顧客が離れてしまうことが考えられます。
顧客が高級化粧品に求めているのは贅沢・高級感であり、そのブランドがもつ特別なイメージです。
つまり、顧客が商品・サービスに求めている「価値」を読み違えてしまうと、業績ダウンにつながりかねません。
原価を抑える仕組みづくりに時間とコストを要する
コストリーダーシップ戦略を成功させるには、原価を抑えることが必要不可欠です。
しかし、原価を抑えるには原材料の仕入れから、生産過程の改善など様々な項目について課題を見つけ改善しなければなりません。
とりわけ、生産工程において社員のスキルアップが必要な場合、育成にかかるコスト・時間は極めて大きくなるのが一般的です。
将来展望を考えればデメリットではありませんが、本格導入には多大な時間やコストを要することを理解しておきましょう。
コストリーダーシップ戦略の実例
コストリーダーシップ戦略は様々な企業で導入されており、多くの成果を出している企業も少なくありません。
実際に導入するには概念やメリットを理解することも大切ですが、実際の成功例に触れ導入後のイメージを明確にすることが重要です。
ここではコストリーダーシップ戦略を導入し、大きく成功した企業の実例を紹介します。
マクドナルド
ファーストフード業界をけん引するマクドナルドは、コストリーダーシップ戦略の失敗と成功の両方を経験した企業です。
マクドナルドは競合他社を価格で圧倒するため、食材の仕入れ・調理・販売までのプロセスを徹底して見直てきました。
その結果、1992年にはハンバーガー1個100円といった、これまでの常識を覆す低価格を実現させています。
しかし、競合他社との低価格競争に巻き込まれてしまい、一時は業績を悪化させる事態に陥ってしまいました。
現在は高級食材を使用した新商品を発売するなど、市場とターゲットを絞り込んだ適正なコストリーダーシップ戦略に移行しています。
ユニクロ
低価格で品質の良いアパレルブランドとして認知されているユニクロもコストリーダーシップ戦略に成功した企業です。
かつてのユニクロは若者向けのB級商品を大量に販売するイメージが強い会社でした。
しかしファミリー層をターゲットとしたシンプルなデザインを基調とした自社ブランドを立ち上げたことで事態は急変します。
また、店舗の立地についても賃貸料が高い都市部から、車でショッピングを楽しむファミリー層の多い郊外に移動しました。
その結果「安かろう、悪かろう」といった悪しき慣習を取っ払い、安くても品質が良いといったイメージの確立に成功しています。
ニトリ
家具の小売業を展開するニトリもユニクロと同様に自社ブランドの確立により、コストリーダーシップ戦略で成功を納めています。
自社ブランドを自社店舗で販売する小売形態をSPA(製造小売業)と呼びますが、ニトリの場合は更に物流を加えた製造物流小売業です。
徹底したコスト管理に加え品質が高いことがニトリの強みであり、「お、ねだん以上。」のキャッチコピーとともに広く認知されています。
すき家
牛丼チェーン店のすきや家は試行錯誤を繰り返しながら、ようやく本来のコストリーダーシップ戦略を取り戻している企業です。
牛丼業界において1位のポジションを維持しているのは吉野家であり、2・3番手につけているのがすき家もしくは松屋になります。
この状況を打開すべく低価格競争を巻き起こしたのは、2・3番手のすき家及び松屋でした。
吉野家は低価格競争に参加せず品質を強みとする独自路線を歩み、現在もその地位はゆるぎないものです。
一方、すき家ではアルバイトが大量に辞めるといったトラブルに見舞われ、事業の存続が危ぶまれていました。
現在は適正な方法でコストリーダーシップ戦略を展開するとともに、差別化戦略も取り入れているのが現状です。
コストリーダーシップ戦略が向いているケース
コストリーダーシップが向いているのは高級感を価値観としていない市場であり、顧客が低価格に価値を見出している分野です。
また、企業の特性としては以下の条件に当てはまると導入しやすくなります。
- 生産規模が安定している・比較的大きい
- 豊富な経験・技術力がある
- 組織構造がシンプルである
- 情報共有する社風が確立されている
コストリーダーシップ戦略は効率的な生産ラインを確立してコスト削減を図らなければなりません。
当然品質を下げることにはなりませんから、生産規模が確保されていることに加え高い技術力を持っている企業であることが条件になります
また、コストリーダーシップ戦略は生産・営業・マーケティングの各部門が協力体制を取らなければ成し遂げることはできません。
したがって、社内の組織構造がシンプルかつ情報共有する社風が確立されていることも必要だといえます。
マーケティング戦略の事例はこちら
コストリーダーシップ戦略のポイント・注意点
コストリーダーシップ戦略のポイントは「低価格競争ではない」ことを強く意識することです。
併せて、決して品質を落とさないこと、一定レベルの利益率をキープすることも大切なポイントとなります。
したがって、原材料の仕入れ価格や各作業工程における作業能率の見直し・作業方法の改善などをパッケージとして考えることが賢明です。
ただし、無理な改善は長続きしません。まずはできる範囲から実施しPDCAサイクルを回すことが必要不可欠とあります。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
コストリーダーシップ戦略以外のポーターの基本戦略
アメリカの経済学者マイケル・ポーター氏はコストリーダーシップ戦略に加えて差別化戦略・集中戦略を提唱しています。
企業経営の基盤を盤石なものとするには、商品やサービス・企業を取り巻く環境などを考慮し、最適な戦略を選択することが重要です。
ここでは差別化戦略・集中戦略の概要に加え、これらの使い分けの方法について解説します。
差別化戦略
差別化戦略とは競合他社にはない自社の強みをアピールする戦略であり、市場における自社のポジションを確立することが目的です。
ここで注意すべきは、自社の強みとは顧客・市場に広く認知されているものであり、今後「強みとしたいもの」ではありません。
既に広く認知されている強みがあるなら、いかにマーケティングにおいてアピールするかが課題です。
現時点で「強みとしたいもの」しかない場合、市場・顧客に認知させることから始めなければならず、多大な時間と労力を要します。
集中戦略
集中戦略とは市場を細分化し、絞り込んだターゲットに対して集中的に商品・サービスを投入する手法です。
市場を可能な限り細分化することで、ニッチな市場を開拓することにつながる上、中小企業においても十分に効果が期待できる戦略です。
原則、コストリーダーシップ戦略・差別化戦略ともに、市場を細分化して商品・サービスを投入しています。
しかし、集中戦略がそれらの戦略と決定的に異なるのは、よりニッチな市場を狙っている点です。
使い分けは?
コストリーダーシップ戦略・差別化戦略・集中戦略はそれぞれに使い分けることで、その効果を発揮します。
コストリーダーシップ戦略は市場規模が大きく、原価・価格とも低い商品・サービスがターゲットです。
これに対して差別化戦略は市場規模は中規模程度、原価・価格ともに高い高級な商品・サービスに適しています。
集中戦略は原価・価格は問いませんが、市場規模が小さいことが条件です。
コストリーダーシップ戦略で迷ったら
コストリーダーシップ戦略で迷ったらデジマクラスのコンサルティングを利用しましょう。
コストリーダーシップ戦略はとても有効な戦略ですが、市場や商品・サービスがマッチさせることが重要になります。
そのためには差別化戦略・集中化戦略と使い分けることが不可欠ですが、豊富な経験や高いスキルが必要です。
デジマクラスでは様々な業界・業種のコンサルティングを行ってきた経験から、適切な経営戦略をアドバイスしています。
マーケティング戦略の事例はこちら
まとめ
コストリーダーシップ戦略はコスト削減を実施することで、商品・サービスの価格を抑え市場をリードする経営戦略です。
適切に導入すればシェアの拡大・利益向上・業務の効率化につながるといったメリットが期待できます。
低価格競争ではなく、あくまでもコスト削減が裏付けとしてあり、一定の収益率を維持することが絶対条件です。
なお、コストリーダーシップ戦略は全ての商品・サービスにマッチするものではありません。
市場規模が大きく原価・価格とも低いことが、コストリーダーシップ戦略にマッチした商品・サービスとなります。
コストリーダーシップ戦略を成功させるには、豊富な経験・知識が必要不可欠です。
デジマクラスのコンサルタントでは、豊富な経験・実績から各企業の実情にマッチしたアドバイス・レクチャーを行っています。