SIPSとはソーシャルメディアにフォーカスして理論化された消費者行動モデルです。
SNSユーザーに特化した理論で、SNSマーケティングやインフルエンサーマーケティングに応用できます。
マーケティング戦略に上手く落とし込めれば高い情報拡散力や高確率での共感・信頼を獲得できるため注目度の高い理論です。
まずは理論のメカニズム・活用法・成功事例などを確認し、自社マーケティング戦略への活用可能性を模索してみてください。
目次
消費者行動モデルの概要
消費者行動モデルとはユーザーが商材を知ってから購入・利用するまでの行動をパターン化・規格化した理論です。
消費者行動モデルを上手く活用できるとユーザー心理の理解につながり、マーケティング戦略を立てやすくなります。
また、社会情勢や市場の環境変化などでユーザーがどのようにリアクションするか予想しやすくなる点もメリットです。
さらに顧客の行動から顕在化していないニーズ・課題を発見したり、コンバージョン率の高い仕組みを構築したりするのにも役立ちます。
SIPSも消費者行動モデルの1つで、ソーシャルメディア上のユーザーが取る行動を理論的にモデル化したものです。
SNSマーケティングの事例はこちら
SIPSが重要視される理由
SIPSはSNSユーザーにフォーカスして分析した消費者行動モデルです。
Sympathize・Identify・Participate・Share&Spreadの頭文字を1文字ずつ取って「SIPS」と略しています。
ソーシャルメディアに特化して顧客の購買行動を理解するために確立され、SNSマーケティングを重視するならば見逃せません。
特に重要視される理由が3つあります。
- 情報拡散力の高さ
- ポジティブなイメージ戦略
- ユーザーからの共感・信頼獲得
SNSはそもそも情報を広く伝搬させるのに向いているツールです。
SIPSの理論に基づきマーケティング戦略を展開するとSNSが本来持っている高い情報拡散力より高い確率で働きます。
また、SIPSの考え方に基づいたマーケティング上の仕掛けが祭りの性質を持っている点にも注目してみてください。
元々参加していなかった人でも「楽しそう」「おもしろそう」と思えば、情報を検索し概要を確認する行動を取ります。
その上で内容に共感できれば「祭り」に飛び入り参加する人が増え、より広いコミュニティに「祭り」が広がっていくのです。
さらに、その情報拡散はSNSユーザーがメインの担い手となる点にも注目してみましょう。
ユーザー間で広がる情報だからこそ他のユーザーからの共感や信頼も得やすくなります。
他の消費者行動モデルとの関連性
消費者行動モデルはSIPS以外にもAIDMA・AISASといったモデルがありますが、比較すると明確な違いがあります。
特に違うのがユーザーのどの行動にフォーカスしているか、です。
AIDMA
AIDMAは1920年代にアメリカで生まれた消費者行動モデルです。
ユーザーが商材を認知してからどのような段階を経て購買に至るかを示しています。
<AIDMAの意味>
- A(Attention):注意・認知・注目
- I(Interest):興味・好奇心
- D(Desire):欲求・願望
- M(Memory):記憶・思い出
- A(Action):行動・行為
SIPSとAIDMAの違いはそれぞれの頭文字を冠している単語を見ればわかりやすいかもしれません。
SIPSの最後のSはShare&Spread、つまり最終的な到達地点は情報の共有と拡散にあります。
対してAIDMAの最後のAはActionなのでユーザーが購入のための行動を起こすことがゴールです。
SIPSがユーザーとの接触を図る点にフォーカスしているのに対し、AIDMAは買う行動にフォーカスしている点が大きく違います。
AISAS
AISASはインターネットが普及した後に登場した消費者行動モデルで、AIDMAの進化系のような位置づけです。
<AISASの意味>
- A(Attention):注意・認知・注目
- I(Interest):興味・好奇心
- S(Search):検索・探索・調べる
- A(Action):行動・行為
- S(Share):共有・分配
AISASとSIPSの最終ゴールはどちらもShareですが、その意味合いは大きく異なります。
SIPSの前提として、Shareするものはあくまでもユーザーが好奇心をくすぐられ拡散したいと思った情報です。
対してAISASのShareはその前の段階で購買行動を示すActionが来ています。
つまり、AISASの考え方を基にするとShareする段階ではすでに商材を購入・利用していることが前提です。
そのためShareする情報も「実際に使ってみてどうだったのか」がメインとなります。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
SIPSのプロセスをチェック
SIPSの考え方に基づくとユーザーは4つのステップを踏まえます。
- Sympathize
- Identify
- Participate
- Share&Spread
各段階の詳細を確認してみましょう。
Sympathize「共感」
Sympathizeの英単語としての意味は同感・共感・共鳴・賛成するです。
つまり、ユーザーにとってはソーシャルメディアでSympathize(共感)できる情報を発見する段階ということになります。
企業にとってはユーザーに認知してもらい、共感・信頼を得る段階です。
特によく用いられているツールとしてX(旧Twitter)・Facebook・Instagramが挙げられます。
企業の方も各SNSツールで公式アカウントを取得し、共感・信頼を得られる投稿を中心に広報活動が必要です。
Identify「確認」
Identifyは見極める・確認する・見分ける・鑑定するという意味で、ユーザーがSympathizeした情報について確認する段階です。
特に下記のような情報がよく確認されます。
- 商材が自分にもたらしてくれるメリット
- 一般的なユーザーからの商材の評価
- 専門家からの評価 など
ユーザーがこの段階で使うツールはSNSに限らず、検索エンジンなども駆使しながら色々な情報にアクセスされます。
また、動画共有サイトに投稿されたレビュー動画なども定番の確認方法です。
Sympathizeの段階で抱いた共感が情報確認後も維持できれば信頼につながり、次のステップへ進む確率が高まります。
Participate「参加」
Participateとは関係する・参加する・預かるという意味の英単語です。
SIPSに当てはめて考えてみると、ユーザーがソーシャルメディア上でマーケティング上の仕掛けに参加する段階ということになります。
SIPSの特徴として、この段階でユーザーが商材を購入・利用しているかどうかは問われません。
例えば、購入検討中で価格.comなどをチェックしているユーザーがX(旧Twitter)でRTしたりコメント欄に投稿するだけでも十分です。
購入・利用に至らなくても参加と見なされるのはSIPSの大きな特徴でもあります。
Shareとは共有する・分ける・分配するという意味です。対してSpreadは拡散・開く・広げる・伸ばすという意味を持っています。
つまり、Share&Spreadはマーケティング上の仕掛けに参加するユーザーが多くの人に情報を共有・拡散する段階です。
この段階ではSNS上に構築されたたくさんのコミュニティを通じ、かなり早いスピードで情報が伝染していきます。
情報が届くコミュニティが多いほど認知・興味・関心を促されるユーザーも増え、購入・利用機会も増える仕組みです。
SIPSの「参加」の参加者レベル
SIPSはユーザーに参加してもらい情報を拡散する消費者行動モデルですが、参加の程度はユーザーによって差があります。
大きく分けると4段階です。
- Participant:ゆるい参加者
- Fan:応援者
- Loyal Customer:支援者
- Evangelist:伝道者
ユーザーはParticipant:ゆるい参加者からスタートし、最終的にはEvangelist:伝道者に行きつきます。
Participant「ゆるい参加者」
4つの参加レベルの中で最もハードルが低い段階です。
<Participantの行動例>
- SNSの投稿に「いいね」を押す
- SNSの公式アカウントをフォロー
- 無料サンプルを使ってみる
- 親和性の高いキャンペーンへの参加 など
Participantは特にX(旧Twitter)で参加者が多く見られる段階です。
情報を提供する側からの働きかけに対し積極的にリアクションを得られるわけではありません。
Fan「応援者」
FanはParticipantから1歩進んだ段階のユーザー・顧客です。
<Fanの行動例>
- 商材を購入・利用する
- 自分のソーシャルメディアアカウントでレビューを投稿する
- ネット会員の登録をする など
段階としてはAISASの最終ゴールであるShareまで進んでくれた顧客に該当します。
InstagramやYouTubeといったメディアが主戦場となることが多いです。
Loyal Customer「支援者」
Fanよりさらに1歩進み、商材・企業の数字に影響を与え得る段階まで進んだ顧客です。
<Loyal Customerの行動例>
- 商材を定期購入する
- 有料会員プランを継続して申し込み続ける
- 企業側に直接届く形で改善要望を伝える など
Loyal Customerは商材の魅力だけでなくブランド力に購入・利用の意味を見出しています。
つまり、商材を購入する動機として機能性や価格といったスペックではなく背景にあるストーリーなどに重きを置いているのです。
よく活用されるメディアとしてYouTubeの生配信などが用いられます。
Evangelist「伝道者」
Evangelistは企業・商材にとって親衛隊のような存在です。
その行動は情報の拡散というよりも布教と考えた方がしっくりくるかもしれません。
<Evangelistの行動例>
- 商材の継続購入が日常化
- ポジティブな口コミの増加
- 非公式のファンコミュニティを主催
- 建設的な改善要望と共に改善案を伝える
- 企業・商材のキャンペーン情報を自ら探し拡散する など
密室性の高いオンラインサロンを利用し情報が拡散されるケースが多く見られます。
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Webマーケティングで活用するには
SIPSを理論として理解できても、どのようにWebマーケティングに落とし込めばよいのかわからないという声も少なくありません。
そこでインフルエンサーマーケティングとクロスメディアを事例に活用方法を考えてみましょう。
インフルエンサーマーケティング
SIPSの考え方はWebマーケティングの中でも特にインフルエンサーマーケティングに応用されています。
SIPSにおける参加者の中でもEvangelistやLoyal Customerは多くの企業にとって特に欲しい人材です。
積極的に新規顧客獲得につながる行動をしてくれるので時には顧客獲得コストにも大きな影響を与えるほどの存在となります。
そこで注目されているのがその分野で大きな影響力を持つインフルエンサーです。
インフルエンサーがEvangelistやLoyal Customerになってくれれば情報拡散力や信頼性が格段に高まります。
そのため、関連分野の専門家やフォロワー数の多い有名人などにモニターになってもらうなど協力を仰ぐ企業も少なくありません。
クロスメディア
SIPSマーケティングをより加速させるために既存メディアを活用したクロスメディアも視野に入れておきましょう。
SNSは拡散力に優れたツールですが、情報の広がりがあるコミュニティの枠外に及ぶことが難しい特徴を持っています。
例えば、あるスポーツチームの情報はそのチームのファンの間では高い拡散力を持った情報です。
しかし、他チームのファンコミュニティでその拡散力が維持できるとは限りません。
そこでマスメディアでの情報拡散もあわせて行うことでコミュニティの垣根を超えた情報拡散が期待できます。
SIPSを活用した成功例をご紹介
SIPSの考え方に基づいたマーケティングの成功例も登場しています。
様々な成功例がありますが、特にMr.CHEESECAKEとCheer Up!花火プロジェクトに注目してみましょう。
Mr.CHEESECAKEの事例
Mr.CHEESECAKEはオンライン販売をメインに提供しているチーズケーキ専門店です。
ビジネスモデル上、Webが不可欠ということもありX(旧Twitter)を利用したSIPSマーケティングで成功しました。
<Mr.CHEESECAKEのSIPSの流れ>
- Sympathize:シンプルでブランドイメージが伝わる画像とともにこだわりやアレンジレシピを投稿
- Identify:ハッシュタグ付きの投稿を徹底、その上で自社商材の口コミ投稿を引用RT
- Participate:X(旧Twitter)のアンケート機能を使い主力商品の人気投票を実施。ゆるい参加者も巻き込む
- Share&Spread:フォロー+引用RT、もしくはハッシュタグ添付で投稿してくれたユーザー限定の抽選プレゼントキャンペーン
SIPSの基本をふまえたマーケティングを行い、公式アカウントは4万人を超えるフォロワーを獲得しています。
Cheer Up!花火プロジェクトの成功事例
2020年、世界中に広がったコロナ禍を受け予定されていた花火大会が軒並み中止となりました。
そこで行われたのが2020年6月1日に開催されたCheer Up!花火プロジェクトです。
コロナ禍の早期収束祈願と悪疫退散を願って、花火業者の協力のもと全国規模のシークレット花火大会が開催されました。
<Cheer Up!花火プロジェクトのSIPSの流れ>
- Sympathize:プロジェクトスタート、X(旧Twitter)の公式アカウントで全国の事業者から提供された動画・画像を公開
- Identify:協力してくれた花火事業者と所属都道府県を公開、SNSユーザーが「居住地の近隣か」「参加のチャンスがあるか」確認
- Participate:イベント当日まで間を置かずに投稿を継続、「いいね」と「リツイート」の数を徐々に伸ばす
- Share&Spread:イベント当日、SNSを通じて開催を知っていたユーザーが住まい近隣で上がった花火について投稿
Cheer Up!花火プロジェクトがバズった理由はいくつか考えられます。
- 密を避けるための打ち上げ場所非公開という措置が「どこで花火が上がるかわからない」ワクワク感につながった
- 事前に事業者・都道府県が明かされ、特定できない程度に場所が絞り込まれた。
- コロナ禍の暗い雰囲気の中で久しぶりの明るい話題だった
- プロジェクトがアメリカの大手マスメディアに取り上げられた など
世界的なスポーツイベントや音楽イベントなど注目度の高い祭りはSIPSマーケティングが生まれやすい条件が整います。
特にCheer Up!花火プロジェクトの場合は社会情勢ともマッチして「祭り」になった成功事例です。
事前の地道な広報活動も功を奏し、公式アカウントの開始宣言ツイートには1.6万もの「いいね」がつけられています。
また、開催中は「#cheeruphanabi」「#シークレット花火」のハッシュタグとともに多くの画像や動画が投稿されました。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
SIPSを活用する際に意識すべきこと
SIPSはSNSを活用した情報発信を軸とするため、企業とユーザーとの距離感が近いマーケティング戦略です。
また、ある意味で「祭り」なので運用中はよくも悪くも情報のコントロールがしづらい状況に置かれます。
そのため、よくない方向で情報が拡散された場合の炎上やそれによる企業・商材イメージへの打撃といったリスクも否めません。
特に誤認情報が拡散されて炎上するケースが最悪のシナリオと考えてよいでしょう。
最悪のシナリオを回避するために、まずは情報を正確かつシンプルに伝えることが求められます。
SIPSの活用に関して困った時の対処法
「自社のマーケティング戦略にSIPSを取り入れたい」と考えていても、下記のようなお悩みはありませんか?
- どのように活用したらいいのかわからない
- 情報を上手く拡散できない
- SNSで何を投稿すればいいのかわからない
- 適任のEvangelistやLoyal Customerが見つからない など
もし、上記のようなお悩みをお持ちでしたらデジマクラスへご相談ください。
デジマクラスはWebマーケティング・デジタルマーケティングを専門領域とするコンサルティングサービスを提供しています。
もちろん、SNSマーケティングも専門領域の1つでSIPSをフレームワークに様々なマーケティング戦略が可能です。
SNSマーケティングの事例はこちら
まとめ
SIPSはSNSマーケティング戦略の一環として取り入れたいフレームワークの1つです。
特に情報の拡散力に優れたSNSツールを活用しムーブメント化した「祭り」を起こせる点が注目されています。
また、SIPSマーケティングを通じて熱狂的なファンや信奉者を獲得できることもあるため積極的に活用しましょう。