企業の成長を考えたとき、多角化戦略を導入したいと思う人は多いのではないでしょうか。
しかし、多角化というと手を広げ過ぎて失敗するのではないかと不安に思う人も少なくないでしょう。
多角化戦略にはリスクがありますが、大きなチャンスになり得るのも事実です。
今回は、そんな多角化戦略について成功した企業の事例を交えて詳しくご紹介します。
目次
多角化戦略が推進されている理由
多角化戦略とは、既存事業を基に新しい分野や業界に進出するという戦略のことをいいます。
既存事業で成功を収めたからといって、今後も成功したままでいられるとは限りません。
インターネットが普及したデジタル化社会において、市場の変化は決して珍しいことではないでしょう。
現在需要がある分野が、20年後も同じようにニーズがあるという保証はありません。
市場の変化に対応できなければ、企業は衰退したり廃業に追い込まれたりすることもあります。
多角化戦略は、そんな市場の変化に対応するだけでなく企業の成長に繋がるとして推進されているのです。
多角化戦略の種類
企業の成長のために注目される多角化戦略ですが、どのような種類があるかご存知でしょうか。
多角化戦略を成功させるためには、その内容を知っておくことが大切です。
ここでは、多角化戦略を関連多角化・非関連多角化の2種類に分けてご紹介します。
関連多角化
関連多角化とは、既存事業と関連性のある分野の事業を展開することです。
例えば、和菓子店がカフェと洋菓子店の経営に乗り出すことは関連多角化に分類されます。
お菓子を扱うという点で関連してますが、その内容は新しい事業への進出です。
関連する事業なので、これまでの経験やノウハウを活かした戦略が可能になるでしょう。
既存事業でのノウハウを活かすことができるのがメリットといえます。
非関連多角化
非関連多角化とは、既存事業とは全く関連のない事業に進出することをいいます。
例えば、通販会社が飲食業界に進出することは非関連多角化です。
非関連多角化は、関連多角化と比べてリスクが高いと感じる人は多いのではないでしょうか。
新しい分野への進出は、既存事業とは異なるノウハウが必要となることも少なくありません。
そのため、リスクを踏まえた上で進出していく必要があるでしょう。
しかし、既存事業に囚われず新しい分野に進出することで、市場開拓や新規顧客の獲得に繋げることができます。
非関連多角化は、リスクがあるものの新たなビジネスの可能性を見出すことができるのです。
多角化戦略の4つの柱
多角化戦略は企業の成長戦略の1つですが、それを提唱したのは経営学者であるイゴール・アンゾフ氏です。
イゴール・アンゾフ氏は、企業の成長戦略を4つに分類し「成長マトリックス」と呼びました。
成長マトリックスは状況や市場に合わせて以下のように分類されます。
- 市場浸透戦略:既存の市場に既存製品を投入する戦略
- 市場開拓戦略:新しい市場に既存製品を投入する戦略
- 製品開発戦略:既存の市場に新しい製品を投入する戦略
- 多角化戦略:新しい市場に新しい製品を投入する戦略
4つの成長戦略をみていくと、多角化戦略との違いが分かるでしょう。
次に、多角化戦略の4つの柱についてご紹介します。
- 水平型多角化戦略
- 垂直型多角化戦略
- 集中型多角化戦略
- 集成型多角化戦略
多角化戦略と一言でいっても、それぞれ異なる性質をもっています。
多角化戦略の分類や詳しい内容はこの後詳しくみていきましょう。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
多角化戦略の分類
成長戦略の1つである多角化戦略は、その中でも4つに分類されます。
それぞれの戦略の内容や特徴を押さえておくことで、多角化戦略の成功に繋げられるでしょう。
水平型多角化戦略
水平型多角化戦略は、すでに開拓済みの市場と関連のある市場に対して新製品を投入するという戦略です。
例えば、一般的な家庭用自動車を扱うメーカーが、バイクや建設車両を生産するのは水平型多角化戦略にあたります。
家庭用自動車と建設用車両の市場は、全く同じではありませんが似ている部分もあるでしょう。
関連した市場に投入するため、販売ルートや工場・倉庫などの共有も可能になります。
また、製造過程においてノウハウや技術はすでに持ち合わせているので、これまで培ったことを利用できるのがポイントです。
垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略は、上流・下流の過程を網羅する戦略のことをいいます。
例えば、飲食店チェーンを思い浮かべてみてください。
飲食店チェーンは、そのお店で顧客に飲食物を提供するのが終着点になります。
しかし飲食物を提供するまでには、生産・流通・加工といったさまざまな工程があるのです。
それらを他社に委託するのではなく、自社で担うことで既存市場を活かしながら開拓していくことができます。
新たに経験やノウハウを培っていく必要がありますが、同一の取引先との関係を活かすことができるでしょう。
垂直型多角化戦略は、先述した飲食業だけでなく製造業とも相性がいいのが特徴です。
集中型多角化戦略
集中型多角化戦略は、既存製品と関連のある製品を新たな市場に売り込む戦略のことをさします。
既存製品を新製品の製造において、技術やノウハウが関連しているというのが特徴です。
そうはいっても、なかなか想像がつきにくいのではないでしょうか。
集中型多角化戦略の代表的な例には以下のようなものがあります。
- カメラメーカーによる医療用レンズの製造
- テレビをメインに製造していた企業がカーナビを製造
- 産業用アルコールメーカーが焼酎を製造
一般的なカメラと医療用レンズでは、市場は全く異なることが分かるでしょう。
しかし、開発・製造においてこれまで蓄積された技術やノウハウを活かすことができるのです。
技術やノウハウだけでなく、すでに取り扱っている資源を活用できることも少なくありません。
集成型多角化戦略
集成型多角化戦略とは、既存製品・既存市場と異なる新たなビジネスを展開していく戦略のことで「コングロマリット型多角化」ともいいます。
代表的な例は、コンビニエンスストアの金融業への進出です。
先述した3種類は、技術や市場の中で何らかの関連があるものばかりでした。
しかし、集成型多角化戦略ではノウハウも既存ルートも活用しない戦略を立てていく必要があります。
そのため、集成型多角化戦略は4種類の多角化戦略の中でも特にリスクが高いといわれているのです。
リスクは高いものの、ビジネスの広がりの可能性を秘めており成功したときのリターンは大きいでしょう。
多角化戦略を導入している企業の事例
多角化戦略を検討するにあたり、実際に導入している企業の事例を知りたい人は多いのではないでしょうか。
ここでは、多角化戦略を導入している3つの企業をご紹介します。
ソニー株式会社
家電メーカーとして有名なソニーでは、集約型多角化戦略を導入しています。
もともとソニーが扱ってきたのはテレビ・カメラ・オーディオ機器がメインでした。
しかしソニーはエレクトロニクス事業に留まらず、さまざまな製品の開発や市場開拓を行っているのです。
ソニーが新たに展開したビジネス内容をみていきましょう。
- ゲーム機器
- 半導体
- レコード会社
- 映画
- 金融業(保険・銀行)
認知度の高いソニーですが、2014年にテレビやパソコン事業において大幅な赤字を出してしまいました。
しかし、多角化戦略によってリスクを分散することができ、低迷したテレビ・パソコン事業を支える結果になったのです。
オリックス株式会社
オリックスはリース事業から始まり、水平型多角化を経て集成型多角化で事業を進化させている企業です。
オリックスグループが進出している業界・分野には以下のようなものがあります。
- 野球
- 金融業(保険・銀行など)
- 水族館
オリックスは法人金融・メンテナンスリース・不動産・事業投資・リテール・海外事業の6つのセグメントに構成され進化を続けています。
ヤマハ株式会社
楽器や音楽で名の通ったヤマハも、多角化戦略を導入している企業の1つです。
ヤマハは楽器・音楽以外に、どのような業界で活躍しているのでしょうか。
- オートバイ製造
- バスタブ製造
- 半導体生産
- リゾート部門
- 英語教室
もちろんすべてが順調という訳ではありません。
しかし、ヤマハは人々の人生にもたらす価値を「ブランドプロミス」と定めて前進しているのです。
多角化戦略に成功した企業の事例
リスクのある多角化戦略ですが、成功している企業はたくさんあります。
ここでは多角化戦略に成功した企業の事例を2つみていきましょう。
富士フイルム株式会社
富士フィルムといえば、写真フィルムを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
そして、デジタルカメラの普及とともに写真フィルムの需要が低下していったのは多くの人がご存知でしょう。
しかし富士フィルムは、写真フィルムの需要激減の前から先を見据えて多角化戦略を検討しいました。
富士フィルムが行った多角化戦略はこちらです。
- デジタルカメラ
- 化粧品
- 医薬品
- 再生医療
化粧品とフイルムは関係のないイメージですが、フイルムの主原料であるコラーゲンや抗酸化技術は化粧品開発に活かすことができるのです。
再生医療事業においても、培った技術で動物由来成分を含まないコラーゲンバイオマテリアルを開発して貢献しています。
再生医療は新しい治療法として期待度も高く、今後も大きな成長が期待される分野です。
写真フィルムから始まった富士フィルム株式会社ですが、多角化戦略によってさまざまな可能性を見出しています。
株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは、大手コンビニエンスストア「セブンイレブン」を運営する企業です。
セブンイレブンは商品を仕入れと販売に留まらず、顧客ニーズに合わせた自社製品の開発を行いました。
店舗で淹れるコーヒーや、レトルト食品などが代表的な例です。
また「セブン銀行」という名称で銀行業界に参入を果たし、コンビニエンスストアをより身近な銀行にしました。
多角化戦略に失敗した企業の事例
ここまでは多角化戦略を導入している企業や、成功した事例をご紹介しました。
しかし成功事例ばかりではなく失敗した事例もあることを知っておかなければなりません。
多角化戦略の失敗事例を2つご紹介するので、導入の際の参考にしてください。
株式会社ユニクロ
ユニクロはカジュアル衣料を展開して大きく成長した企業ですが、多角化に関してはあまり積極的ではありません。
これは2002年にユニクロが野菜の通信販売業に乗り出した経験が影響しているのです。
野菜の通信販売を始めたユニクロですが、欠品や在庫管理の難しさから2年間で28億円の赤字を抱える事態になりました。
野菜は衣類と違って計画生産が難しく安定した供給ができなかったのです。
その結果、ユニクロは新事業から撤退し主力である衣料品に集中し磨きをかけることに徹しています。
多角化戦略では失敗したものの、2006年に低価格の「GU」を立ち上げ成功を収めました。
RIZAP株式会社
RIZAP株式会社は、「結果にコミットする」をキャッチフレーズにしたCMで有名となったジムを展開する企業です。
ジム事業では業績も良く黒字展開でしたが、多角化に打って出たことで赤字に転落しています。
RIZAPが多角化に乗り出したのは以下の分野です。
- カジュアル衣料品
- CD・ゲームソフト販売
- フリーペーパー発行
- 補正下着販売
多角化で買収してきた子会社の業績が振るわず、本業のジム事業の足を引っ張る形となってしまいました。
多角化戦略には意欲だけでなく、買収企業の状況を見極める目と見通しを立てる力が充分に必要なのだと教えてくれる事例です。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
多角化戦略を導入する最適なタイミング
多角化戦略を導入するときは、タイミングを見極める必要があります。
どの種類の多角化戦略を導入するとしても、コストがかかることは避けられません。
そのため、多角化戦略を導入するなら経営状態がいいときが最適といわれています。
また既存事業の価値が高まっていること、基盤が整っていることも大切なポイントです。
新規事業を起こすとなると、組織はそちらに注力することが考えられます。
それでも既存事業がしっかりと回るだけの価値や基盤が整っていなければならないのです。
新規事業に注力している間に既存事業が衰退しては元も子もありません。
多角化戦略を導入するときは、リスクやコストを考慮した上で最適なタイミングを見極めるようにしましょう。
多角化戦略の導入で悩んだら
多角化戦略でリスクの分散をした企業や市場開拓に成功した企業はたくさんあります。
しかし、市場やニーズの見極めが上手くいかず失敗した企業も少なくありません。
リスクを回避して成功に導くことができればいいのですが、そのための戦略を立てるのが難しいのです。
多角化戦略の導入で迷うことがあれば、デジマクラスにご相談ください。
経験やノウハウをもったコンサルタントが、最適な戦略を一緒に検討させていただきます。
まとめ
今回は、企業の成長戦略の1つである多角化戦略について事例を交えてご紹介しました。
多角化戦略とは、既存企業を基にして新しい分野へ進出するための戦略をいいます。
デジタル化が進んだ市場は、数年で変化することも少なくありません。
そのため、多角化戦略を導入してビジネスの可能性を広げていく必要があります。
しかし場合によってはリスクを伴うため、どのような戦略を立てるか見極めなければなりません。
多角化戦略を導入するにあたり、成功例や失敗例を知って学ぶことも大切です。
もっと多角化戦略について知りたい、導入の相談をしたいという方はぜひデジマクラスにご連絡ください。