マーケティングマイオピアは「近視眼的マーケティング」とも呼ばれます。
「マイオピア」とは目先のことしか考えないことをいいます。
企業が目先のことしか考えないため自社ブランドを過小評価してビジネスチャンスを逸することを指すのです。
企業はマーケティングマイオピアを意識することで事業の停滞を避けられます。
今回はマーケティングマイオピアの具体例を解説し、マーケティングマイオピアに陥る理由や回避策を紹介します。
目次
マーケティングマイオピアの概要
マーケティングマイオピアは1960年ハーバード大学セオドア・レビット教授が提唱した考え方です。
企業は顧客が何を求めているかをおろそかにして商品志向に走ってしまうことに警鐘を鳴らしたものです。
日本語では近視眼的マーケティングと訳されます。
企業は気づかないうちに自己欺瞞のサイクルである、近視眼的マーケティングに陥るのです。
自己欺瞞こそマーケティングマイオピアの要因といえるでしょう。
マーケティングマイオピアは経営の失敗ともいわれます。
マーケティングマイオピアが起こる原因はいくつかありますが主なものはこちらになります。
- マーケティングに対する視野が狭くなる
- 環境に応じた柔軟な考え方ができない
- 幻想を追い求める
マーケティングマイオピアが起こる原因については後ほど詳しく解説します。
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マーケティングマイオピアの具体例
それではマーケティングマイオピアの具体例について解説します。
マーケティングマイオピアの具体例として取り上げられるのが、アメリカ鉄道業界と映画業界です。
鉄道業界
まず取り上げるのは1960代のアメリカの鉄道業界です。
1960年代にアメリカの鉄道業界は衰退していきます。
その理由は車と航空機による輸送が活発になったことです。
鉄道事業に固執してきた鉄道業界は代替事業を考えていませんでした。
車や航空機が大量に安く運べる輸送事業に参入し鉄道は衰退して行ったのです。
レビット教授はアメリカの鉄道業界は製品志向が強すぎたため、航空機や自動車輸送の発展に対応できなかったと指摘しています。
日本では鉄道業界は周辺の不動産投資やバス・タクシーなど関連するビジネスに進出しているため発展を遂げたのです。
現代社会で日本の鉄道会社は社会的インフラとして欠かせないものになりました。
ハリウッド映画
1950年から1960年代になるとアメリカの映画業界は衰退していき、各地で映画館が閉鎖されていきました。
原因はテレビの普及でした。
それまでの映画業界はテレビをエンターテインメントの1つとして捉えていなかったのです。
顧客志向ではなく映画という製品志向に重点をおいた映画業界はマーケティングマイオピアの典型的なモデルといえるでしょう。
皮肉なもので今度はテレビ業界が動画投稿サイトをはじめとするデジタル業界にその地位を脅かされる立場になっているのです。
コダックのカメラ事業
コダックはアメリカカメラ業界では圧倒的なシェアを起こる一大企業でした。
しかし、2012年に連邦裁判所に破産申請を出すことになるのです。
カメラ・フィルムの大手コダックの破産はマーケティングマイオピアの衰退を物語る一例といえます。
高いシェアを誇ってきたカメラ・フィルムに集中しすぎ、デジタル化に遅れたのです。
顧客志向を早い段階から取り入れていれば違った方向性を見いだせたかもしれません。
Yahoo!の衰退
マーケティングマイオピアといえばYahoo!も例外ではありません。
時価総額13兆円といわれたYahoo!は大手通信業界者ベライゾンに5,000億円で売却されました。
主な原因はAppleをはじめとするモバイル端末の台頭です。
iPhoneの登場から顧客はモバイル化していきます。
Yahoo!はGoogleと並ぶ検索エンジンを持ち、それ以外にはニュース・メール・オークションなどを手がけていました。
しかし、顧客が他社のサービスに流れていく中でモバイル端末に対抗する戦略を描ききれず衰退の一途を辿ったのです。
市場環境が劇的に変わり始めた時についていけなかったのがYahoo!の衰退の大きな原因といえるでしょう。
マーケティングマイオピアに陥る理由
マーケティングマイオピアの具体例で見たように、企業は独占的なシェアを握っている時は代替事業を考えないものなのです。
顧客志向よりも製品志向を追求し収益を伸ばすことに躍起になっています。
そして気が付くと顧客に背を向け、最終的に市場で取り残された存在になるのです。
それではなぜマーケティングマイオピアに陥るのか詳しく見ていきましょう。
市場が拡大し続けるという幻想
マーケティングマイオピアに陥る企業は大手企業が多いといえます。
業界で圧倒的なシェアを握っているので後発の企業が脅かす存在になるとは思っていないのです。
市場は拡大し続けるという幻想に捉われ事業改善などは全く考えていないケースが多いのです。
社会構造やライフスタイルの変化で需要は大きく変ります。
大企業も同じで市場のトレンドを見誤ると衰退の道を辿ることもあり得えます。
世界の人口は増え続けますが、人口増加が市場の拡大に繋がらないのです。
逆に人口が増えても市場の衰退は起こります。
代替品が存在しないと思い込んでいる
業界で圧倒的なシェアを誇っていると代替品は存在しないと勝手に思い込みがちになります。
新しい技術や代替品は、登場して間もないときはコスト優位性がありません。
そのため既存の企業は代替品にあまり脅威を感じません。
そのうち気が付くとシェアを脅かすライバルになる可能性があるのです。
技術革新やライフスタイルの変化で代替品が注目されることはあります。
ライバルが続々現れても恐れるに足ることはないと思うのです。
しかし、消費者が新しいトレンドに敏感です。
ライバル製品が話題になれば潮目が変わります。
顧客志向を怠ると顧客に足元をすくわれることになるのです。
常に市場の動きを注視し、顧客の声に耳を傾けることが大切です。
コスト優位性を過信している
成長している企業はコスト優位性があるため、後発の企業に対して商品やサービスを競合だと認めません。
またコスト優位性を獲得すれば戦略上、業界の主導権を握れるようになります。
しかし、コスト優位性を過信していると、他の企業との価格競争に巻き込まれるリスクがあります。
新しい技術開発を導入し、コストが下げられるならいち早く取り組んで価格競争に対処すべきです。
既存製品の改善に注力している
コストを削減し、既存商品の改善に注力することはすばらしいことですが、消費者がどれだけそこに魅力を感じるかは別問題です。
既存商品に新機能を追加しても新商品が他社から発売されれば、消費者は新商品に流れる可能性があります。
しかも価格が安ければなおさらでしょう。
既存製品にのめり込みすぎると、過信から代替製品や新技術を軽んじ結局コスト優位性にしがみつくことになるのです。
マーケティングマイオピアに陥る企業は、消費者のニーズを正確に読み取り、商品化することが求められます。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
マーケティングマイオピアに陥りやすい環境
マーケティングマイオピアの原因は自己欺瞞であるとレビット教授は指摘しています。
企業は自分たちが良い製品を作り、顧客も喜んでいるから大丈夫、代替品よりもコスト優位性があるから不安を否定してしまうのです。
会社の上層部自体が自分たちの不安を欺いている以上、マーケティングマイオピアに陥りやすいといえるでしょう。
わかっていてもできないそれが企業体質になり負のスパイラルに陥り衰退を余儀なくされるのです。
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新しいマーケティングマイオピアの特徴と原因
1960年にレビット教授が提唱したマーケティングマイオピアに陥らないように企業は思考錯誤してきました。
しかし、回避しようとするあまり近視眼的になってしまうのです。
それが新しいマーケティングマイオピアと呼ばれています。
新しいマーケティングマイオピアに陥る原因はこの3つです。
- 顧客に寄り添いすて競合・株主・従業員がないがしろになっている
- 顧客のニーズに偏りすぎる
- 市場環境やビジネス環境の変化を把握できなかった
それでは新しいマーケティングマイオピアを解決する方法について解説します。
5つの解決方法がありますので紹介しましょう。
- 企業に関係するステークホルダーをリストアップする
- ステークホルダーの重要性を理解して整理する
- ステークホルダーの課題と期待を整理する
- ステークホルダーとの関係を構築する
- ステークホルダーとコミュニケーションをとる
顧客志向を重視するあまりステークホルダーとの関係をないがしろにしないようにするのがポイントになります。
顧客はもちろん大事ですが、従業員・株主あっての企業です。
企業が置かれている環境を冷静に判断し、今取るべき行動を推し進めることが重要です。
マーケティングマイオピアに陥らないために注意すること
どんなに好調な市場でも永遠に成長し続けることは不可能です。
ここではマーケティングマイオピアに陥らないために注意点について解説します。
成長市場を作っているのは誰?
成長している市場では、プレイヤーたちが成長の機会を作り出します。
そして企業が市場に投資できる組織を作り適切な経営を行っているのです。
成長の機会を作り出しているのは顧客です。
商品を購入するという行為を通じて市場に投資することが市場の成長の機会に繋がります。
マーケティングマイオピアでは企業の活動は製品を生産することではなく、顧客を満足させるプロセスになります。
マーケティング担当者はかかりやすい
マーケティング担当者はマーケティングマイオピアに陥りやすいといわれます。
自社製品に惚れ込んでしまうため、自社製品を中心に考えてしまうからです。
これこそがマーケティングマイオピアのデメリットといえるでしょう。
マーケティングでは市場に商品を送り出すだけでなく、顧客の購買意欲をかき立てるようにすることが重要です。
そして冷静な目で市場を分析し、必要な対策を取ることがマーケティング担当者には求められます。
マーケティングマイオピアを回避する方法
ここではマーケティングマイオピアを回避する方法について解説します。
当事者意識をもつ
レビット教授は事業が縮小するのは業界が飽和状態であったり、縮小していたりするのではなく、経営者責任だといっています。
マーケティングマイオピアに陥らないために、企業は顧客を理解し取引をしたいと思わせることが大切です。
そのためには経営者は経営に対して高い当事者意識を持ち、事業戦略に大きな責任を持つことが必要です。
これはマーケティング担当者にも当てはまります。
産業を様々な切り口から考える
マーケティングマイオピアの原因の1つは自社の事業定義を狭義に捉えることです。
その結果、新しいテクノロジーやサービスの変化に対応できなくなるのです。
そうならないためには、産業を様々な切り口で捉えることが重要になります。
そして、顧客のニーズを理解し変化に柔軟に対応することです。
顧客中心志向
マーケティングマイオピアには既存の改善にこだわり過ぎて、顧客の需要やニーズがないがしろになるリスクがあります。
従来は企業から一方的な情報を配信するだけでした。
しかし、デジタル時代を迎え企業と顧客の双方向的なコミュニケーションが重要視されています。
その中で顧客の求めるものを理解し具体化することが企業の義務です。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
有望な市場に潜むマーケティングマイオピアの危険
有望な市場ほどマーケティングマイオピアになる危険があります。
企業や市場が成長している時は、利益を拡大させるために製品志向になりがちです。
テクノロジーが先行する市場では、優れた製品を生産すれば売れると思い込んでしまいます。
そうなると顧客への関心がなくなりマーケティングマイオピアになる可能性が出てくるのです。
成長そして成功の後には衰退が起こることは歴史が証明しています。
それを回避するために顧客満足度の向上を目指していくことが重要になります。
マーケティングマイオピアに陥らないためには?
成功を手にした企業はマーケティングマイオピアに陥る危険があります。
製品がヒットし生産が増大すると利益を求めるのがマーケティングの常です。
しかし、成功は長く続くとは限りません。
マーケティングマイオピアに陥らないためにはマーケティングを熟知したコンサルティング会社に相談しましょう。
デジマクラスには豊富なマーケティングに関するノウハウ・知識・経験があります。
自社の状況を分析し最適なアドバイスとサポートを提供します。
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まとめ
マーケティングマイオピアの具体例を解説してきました。
企業は目の前で起きる事象ばかりに捉われがちです。
その結果、やらなければならないマーケティング活動や企業の社会的役割を狭く理解してしまうのです。
これがマーケティングマイオピアであり近視眼的にマーケティングを展開する企業は衰退していきます。
また、マーケターは自社の製品やサービスを愛せば愛するほどマーケティングマイオピアになりやすい傾向があります。
成長している時だからこそ将来を見据えて、次なるビジネス戦略をしっかり描くことが重要です。
マーケティングマイオピアに陥らないために市場や顧客のニーズに気を配りながら、顧客満足度を向上させましょう。