市場競争が激化している中でイノベーションを起こすには、「ジョブ理論」の考え方が役立ちます。
マーケティングに使えるジョブ理論のフレームワークをマスターして、アイデアの創出につなげましょう。
ジョブ理論の概要や種類・基本構造から把握しておくことで、より理解が深まるはずです。
具体的な実践方法に沿って実行していくと、顧客のニーズに即したソリューションが見つかります。
目次
ジョブ理論の概要
近年のマーケティング業界では論理に基づいて、顧客がサービスを買う理由を把握する手法が登場しました。
多くのマーケッターに注目されている「ジョブ理論」は、これまでの概念を覆す画期的な考え方です。
フレームワークを考える前にまずは基本的な考え方や基になった著作、顧客の課題である「ジョブ」の種類を見ていきましょう。
ジョブ理論とは
ジョブ理論とはハーバード・ビジネス・スクールの教授クレイトン・クリステンセン氏によって提唱された考え方です。
「ジョブズ法」や「Jobs-To-Be-Done(JTBD法)」とも呼ばれています。
『ジョブ理論』と訳された教授の著書は原題だと『Competing Against Luck』で、「運頼みに打ち勝つ」という意味合いです。
この本で提唱されたジョブ理論では、顧客が商品を購入する理由を「ジョブ・雇用・解雇」という3要素で考えます。
消費者が成し遂げたい進歩を「ジョブ」として、商品やサービスを買う行動を「雇用(ハイア)」と位置づけるのです。
購買で課題が解決すれば顧客自身の行動や別のサービスがすべき仕事が消え、「解雇(ファイア)された」と見なします。
ジョブの種類を紹介
「ニーズ」という言葉はマーケティング業界に広く浸透していますが、商品やサービスがある前提で考えられる表層心理です。
一方でジョブはソリューションの有無にかかわらず、顧客が課題を解決するために取る行動を表します。
消費者が片付けたいジョブの種類は以下の3つです。
- 機能的ジョブ
- 社会的ジョブ
- 感情的(情緒的)ジョブ
「機能的ジョブ」とは生活に関わりが深く、サービスや商品が持つ基本的な機能によって成し遂げられる進歩です。
「社会的ジョブ」「感情的ジョブ」は機能的ジョブより上位に位置づけられます。
ジョブ理論を生かすには上位のジョブまで考慮して、ソリューションを考える施策が必要です。
マーケティング戦略の事例はこちら
ジョブ理論の基本構造
ジョブ理論を考えるうえで基本的な構造への理解は重要です。次のポイントを押さえておきましょう。
- 商品の購入・利用は「消費」ではなく「雇用」
- ジョブは顧客の状況によって決まる
- ジョブを片付けたときに得られるのは、機能的なメリットだけではない
1番目はジョブ理論独自の考え方といえるでしょう。
顧客がサービスや商品を買って活用したとき初めて、片付けるべきジョブから開放されます。
企業が従業員を雇用するのと同じく使った結果でジョブが片付くかどうか変わるのです。
2番目は当たり前と思われがちな項目ですが、正しく理解している企業は意外に多くありません。
ジョブは商品やサービスありきのニーズではなく、あくまでも特定の状況でユーザーが達成したいゴールで決まります。
3番目はソリューションを考えるに当たって必ず考慮したいポイントです。
機能面でのメリットは大前提ですが、情緒的・社会的に成し遂げたい進歩も達成されれば満足度が上昇します。
・顧客は製品の活用でジョブを片付ける
・顧客の状況ごとにジョブが変わる
・ジョブ完了時は感情面にもメリットがある
ジョブを見極めるポイント
顧客が持っているジョブは状況によってさまざまです。
ジョブを見極めて雇用され得る解決策を提供するには、顧客の状態に合わせた施策を考えなければなりません。
ジョブを見つけてよりよい顧客体験につなげるポイントは、主に次の4つです。
- 生活に関連の深い用事を探る
- ジョブを持っているが、まだどのサービスや商品も雇用していないターゲットを探す
- 消費者独自の解決方法を調査する
- 顧客がしたくない仕事に目を向ける
ターゲットとなる層がこなしたい用事(ジョブ)を把握できれば、効果的なアプローチが可能です。
ジョブ自体は持っていても何の解決策も取れていない「無消費」の状態にいるユーザーは、潜在的な顧客となり得ます。
既存の解決策に満足できず独自のやり方でジョブをこなしている人にとって、満足できる手段の提供は有益です。
できれば避けたいと思っている「ネガティブジョブ」に対しては、回避できるソリューションを提供できます。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
ジョブ理論の主なフレームワーク
ジョブ理論の提唱者であるクリステンセン教授は、著作の中でフレームワークまでは提示していません。
JTBDを実践するマーケッターが考案してきた代表的なフレームワークが、自社の戦略に役立ちます。
紹介する考え方に沿って施策を練っていくと、効率的にジョブ理論を顧客体験につなげられるでしょう。
コア機能的なジョブ
「コア機能的なジョブ」は顧客が購買行動を取る理由の根本です。
社会的・職業的な生活を送るうえで欠かせない仕事や用事を意味しており、第1に考えたいジョブといえるでしょう。
ジョブ理論をマーケティングに生かしたいなら、まずはターゲット層のコア機能的なジョブを見極めるのが先決です。
正しくコア機能的ジョブを設定すると、ジョブが解決策の種類に左右されず不変の指標となるというメリットがあります。
例えば音楽配信サービスを提供している場合、ターゲット層のコア機能的ジョブは「音楽を聴く」という用事です。
媒体がアプリでもWebサイトでもジョブは片付くため、後は利便性や顧客の行動特徴によって戦略を広げられます。
理想の結果を予測
コア機能的なジョブを設定した後に考えたいのが、ユーザーが商品を購入・利用した後に得られる結果です。
ジョブを達成したときどの程度の満足感を得られるかを考えると、改善の方法が見つかりやすくなります。
音楽配信サイトであればダウンロードまでにかかる時間や、音質の良しあしで結果が変わってくるでしょう。
理想とする顧客体験のゴールを定め達成できるように改善を重ねます。
ジョブ理論ではサービスや商品が顧客の仕事をこなすリソースとなるため、結果を出せる従業員を育てるイメージです。
関連ジョブ
顧客が片付けたいジョブは1つではありません。
1個のジョブにつき関連があるジョブは少なくとも5〜20個あるといわれています。
例えば勤怠管理を効率化したいという顧客の多くは、データの可視化やタイムカードの自動化といった課題も抱えています。
関連性のあるジョブを見つけていくことで提供すべきソリューションを1度で把握することも可能です。
コア機能的なジョブを設定したら、そこからどのようなジョブが派生していくのかを書き出して整理しましょう。
感情的・社会的ジョブ
上位ジョブに位置する「感情的・社会的ジョブ」は、よりよい顧客体験を考えるうえで欠かせません。
機能的ジョブを片付けるだけでなく、ジョブ達成時に顧客が得られる感情的・社会的な報酬も提供できるよう工夫しましょう。
自社ECでの商品販売であればプレゼント用としても購入できるよう、ラッピングのサービスを提供する方法があります。
売る商品自体に社会的なステータスをアピールできる要素を盛り込むといった施策も、社会的ジョブ達成のために有効です。
消費チェーンジョブ
「消費チェーン」とは顧客が商品の購入を検討してから実際に利用し、廃棄するまでのサイクルです。
電気機器などでは快適に使うために修理するというジョブも発生します。
消費チェーンに関わるジョブのいずれか1つでも省略できると、顧客体験が高まります。
近年はフィルターの自動掃除機能を備えているエアコンが人気です。
エアコンの使用に当たって必要な「掃除」というジョブを省略できるようにし、よりよりソリューションを提供しています。
金銭的な期待効果
ジョブを達成したときに金銭的なメリットを提供できることも、ユーザーの満足度を上げるために必要です。
サービスを雇用した結果、顧客がジョブ達成のために割いていたリソースを減らせれば金銭面でメリットがあります。
ジョブに対してすでに他のサービスを雇用している場合でも、コストメリットが高い解決策があれば乗り換えるでしょう。
あらゆる種類のジョブに対していえることで、新規顧客の獲得にも既存顧客の囲い込みにも大切です。
・購買理由の根本「コア機能的なジョブ」を設定
・理想的な結果を予測にサービスを改善
・関連するジョブを見つけてソリューションを提供
・感情的・社会的ジョブの達成で顧客体験を向上
・手間になる消費チェーンジョブを省略
・雇用したいと思わせるようにコストメリットを向上
ジョブ理論の実践方法
ジョブ理論をマーケティングで実践するには正しい手順に沿った計画が必要です。
ターゲットのジョブを正確に把握してソリューションを提供するためにも、具体的な実践方法を押さえておきましょう。
顧客の特徴を分析
新規事業を興すときも既存の事業を改善するときも、ジョブ理論を使うにはまず顧客の特徴を把握しなければなりません。
ターゲットとなり得るペルソナ(具体的な顧客像)の属性や消費行動を調査して、どのような課題を抱えているのか分析します。
この段階では最低限コア機能的なジョブまでつかめれば問題ありません。
また定量的なデータ以外に言葉で表される要望もジョブを把握する際に役立ちます。
もし特徴の分析から無消費の状態に陥っているターゲットが見つかれば、大きなマーケットにつながるでしょう。
商品・サービスを利用する前後・最中の状況を整理
顧客の状態や持ち得るジョブを把握できた後は、実際に製品やサービスを利用した場合のストーリーを作るフェーズです。
消費者が購入に至るまでの流れから購入・活用のシーンまで、ペルソナの行動特徴に基づいてシミュレーションします。
利用する時間帯やシチュエーションまである程度決まっていれば、ストーリーを作りやすいはずです。
購入するときの「ビッグ・ハイア」より、サービスを実際に利用する「リトル・ハイア」を重点的に考えましょう。
ジョブ理論で製品やサービスの価値は購入ではなく、実際に活用できるかどうかで決まるとしています。
ある状況で成し遂げたいジョブを特定
顧客の持つコア機能的ジョブや行動特徴からシミュレーションを行ったら、より細かいジョブを特定します。
「音楽を聴く」というコア機能的ジョブが同じターゲットでも、状況によって片付けたい用事は変わるためです。
ほとんどのサービスをアプリで利用している人が「普段と同じ方法で音楽を聴く」というジョブを抱えているとします。
この場合ソリューションとなる手段は「アプリを通じた音楽配信」です。
自社サービスを雇用してほしい顧客が特定の状況下で達成したいジョブを見極めましょう。
利用してもらえない理由をあらかじめ特定・対策
ジョブ理論を使って事業を進めていく中で、あらかじめつぶしておきたいのが「雇用されない理由」です。
企業が従業員を雇用するときも、計画している研修でスキルを習得させられない人材は採用しないでしょう。
商材の販売においてはよりシビアで、顧客は単に面倒だという理由でも購入をやめてしまいます。
ECサイトで商品を販売したいなら素早く購入できるフローを整えるといった施策が必要です。
ペルソナの行動特徴を元に利用されない原因を特定して、それを取り除くための対策を練りましょう。
ジョブの解決策が満たすべき条件を特定
顧客が自社サービスを選んでも、実際にジョブが解決できなければ成功とはいえません。
ジョブの完了ととらえるべき条件をリスト化して、あらかじめ特定しておきましょう。
ターゲットの持つあらゆるジョブを考慮して、何を成し遂げれば完了となるのかを決めていきます。
最適なソリューションを提供するためにも具体的な条件を設定することがポイントです。
ジョブの解決策を定義
ペルソナの特徴や仮定したストーリー・特定の状況下でのジョブや完了の条件が決まったら、解決策を定義できます。
最適なソリューションを決めるときは雇用に踏み切れない理由がないか、再びチェックしましょう。
解決策の定義に至るまでには紹介したフレームワークも活用しながら、実践のプロセスを進めると効率的です。
ソリューションが決まってサービスを改善した後も、定期的にアンケートや分析を行ってよりよい顧客体験を目指しましょう。
・ペルソナの行動特徴や持ちうるジョブを分析
・購入前から活用・ジョブ完了までのストーリーを作成
・顧客の状況から考えられる具体的なジョブを特定
・雇用に当たってハードルとなる要因の排除
・ジョブ完了となる条件を特定し、解決策を決定
ジョブ理論へ期待されることは
顧客の背景や価値観が多様化した現代では、データ分析だけでは企業が考えるニーズと実態が乖離するようになりました。
ジョブ理論は「なぜそのサービスや商品を購入したのか」を把握できる考え方です。
新規事業の立ち上げや事業改善に取り入れることで、ズレがない顧客軸のマーケティングを実現できます。
ジョブ・雇用という考え方を用いて因果関係を解き明かすと、自社サービスが購入されなかった原因の特定も可能です。
・顧客の視点とズレのない戦略を立てられる
・購入する・しない理由を論理的に理解し、採用されない原因を探れる
ジョブ理論の事例を紹介
ジョブ理論の代表的な活用事例が、クリステンセン教授の著作にも登場する「ファストフード点のミルクシェイク」です。
ミルクシェイクの売上向上を目標としていたファストフード店は、フレーバーの追加や市場調査に基づいた戦略を立てました。
しかしフレーバーの種類を増やしても量や値段を工夫しても、思うように売上が伸びません。
そこで「なぜミルクシェイクを買っているのか」を中年男性の顧客に聞いたところ、得られた回答は次の2つです。
- 平日朝の顧客層:腹持ちがよくロングドライブに適している/手を汚さず手軽に朝食をとれる
- 休日夕方の顧客層:子どもに買い与えて喜ばせることで、優しい父親を演出できる
平日朝に購入する層は「長く満腹感を得る」「手軽かつ手を汚さず朝食をとる」というジョブを持っていました。
休日夕方によく利用する層のジョブは「子どもが喜ぶものを与えて、優しい父親と思われる」ことです。
どちらもソリューションとしてミルクシェイクが最適だったため、購入されていると分かりました。
ファストフード店はより満腹感が続くようドロドロしたミルクシェイクを開発し、売上の改善に成功しています。
子どもに買い与えても罪悪感のないサイズのミルクシェイクは、休日夕方の層に刺さって功を奏しました。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
ジョブ理論の活用
ジョブ理論が活用できるのは製品やサービスの改善だけではありません。
プロモーションも顧客が成し遂げたい進歩に焦点を当てることで、より刺さるものを作れます。
ミルクシェイクの例であれば安さやフレーバーを強調するより、腹持ちや子ども用のサイズをアピールした方が効果的です。
企業がアピールしたいポイントではなく、顧客が魅力的に感じる点を訴求すると広告効果が高まります。
また企業の予想とは違う「雇われ方」をしている商品があったなら、それを起点に新商品の開発が可能です。
新しい切り口を見つけて戦略に役立てられるのも、ジョブ理論を取り入れた企業の強みとなるでしょう。
マーケティング戦略の事例はこちら
ジョブ理論のフレームワークで悩んだら
ジョブ理論を取り入れることで理論的なニーズの把握が可能です。
しかし基本構造や実践方法が分かっていても、自社に合ったフレームワークを活用できないと戦略の策定が難しいでしょう。
フレームワークは完全に型が決まっているわけではありません。
自社の状況に適した考え方に疑問や不安がある場合は、デジマクラスのコンサルティングにご相談ください。
メディア運営で培ったマーケティングの経験を基に、イノベーションにつながるジョブ理論の活用法を提案します。
マーケティング戦略の事例はこちら
まとめ
競争が激化している現代の市場において、購入・利用を「雇用」ととらえるジョブ理論の重要性が増しています。
顧客が成し遂げたい進歩を「ジョブ(仕事)」とすることで、完全に顧客軸の戦略を策定することが可能です。
業績が上がらずイノベーションを考えている企業は、代表的なフレームワークや基本構造を押さえて施策づくりに役立てましょう。
ジョブ理論を取り入れると自社サービスが採用されない理由も分析でき、改善の方向も定めやすくなります。
疑問や不安があるならコンサルティングも活用しながら、顧客体験の向上を図ると効率的です。