ここ10年くらいの間にIT業界ではAPIエコノミー(経済圏)という概念が注目されるようになってきました。
これは、異なる企業が提供するWebサービスをAPI(Application Programming Interface)を使って連携させ新たな付加価値を生み出すことで、競争力を高めるビジネスモデルのことです。
本記事では、APIエコノミーが注目されている理由・その活用事例・特に成長が期待できる業界も紹介します。
目次
APIエコノミーの特徴
APIエコノミーの特徴としてまず、異なる企業が提供するWebサービス同士を連携させ、新しい付加価値を生み出せる点が挙げられます。
これによって、顧客が求めるニーズに合ったサービスを提供できるようになり、企業の競争力が高まるというメリットがあります。
また、APIを利用することで、開発コストを削減できる点も特徴の一つです。
APIを公開することで、他の企業や個人がAPIを活用し自社のサービスをより簡単かつ効率的に開発できるため、開発コストを大幅に削減できます。
さらにAPIを利用することで、中小企業でも新しいサービスを迅速かつ低コストで提供できるので、企業の多様化やイノベーションを促進する役割も持っています。
- スマホやタブレットなどデバイスが多様化
- Webサービスの利用者が急増
- 高品質なWebサービスを効率的に提供
- 革新的なアプリケーションやサービスの開発を促進
なぜAPIエコノミーが注目されているのか
APIエコノミーが注目されている理由は、Webサービス利用環境の変化とイノベーション創出で大きな役割を担う点が挙げられます。
Webサービス利用環境の変化
まず、スマートフォンやタブレットなどさまざまなデバイスからのアクセスが可能になり、Webサービスの利用者数が急増しWebサービス利用環境が劇的に変化していることです。
また、ユーザーのニーズも多様化しており、より高品質で使いやすいサービスが求められています。
APIエコノミーは、APIを利用することにより開発効率を大幅に向上させ、より高品質なサービスの提供が可能です。
そのため、Webサービス利用環境の変化に対応する上で重要な役割を果たしています。
イノベーション創出で大きな役割を担う
また、APIエコノミーはイノベーション創出で大きな役割を担っています。
APIを提供する企業は、外部の開発者やパートナー企業にAPIを提供することにより、革新的なアプリケーションやサービスの開発を促進できます。
これにより、新たなビジネスモデルの創出や市場の開拓が可能になり、イノベーションを促進できるのです。
また、APIを利用する開発者やパートナー企業も自社のアプリケーションやサービスに新たな機能を追加でき、より高付加価値なサービスを提供できます。
- 米国ではAPIエコノミーの市場規模が数兆円規模の市場にまで成長
- 米国ではAPIエコノミーを支えるインフラやサービス提供企業が急速に増加
- 日本ではFinTechの鍵を握るものとしてAPI公開の動きが活発化
API市場の動向
ここでは、海外と国内に分けてAPI市場の動向を概説します。
海外:APIエコノミーの成長
海外においては、APIエコノミーの成長が著しく、さまざまな産業分野においてAPIを活用したビジネスモデルが生まれています。
特に米国においては、APIエコノミーの市場規模が急速に拡大しており、数兆円規模の市場にまで成長しています。
この成長に伴い、APIエコノミーを支えるインフラやサービス提供企業が急速に増加し、APIエコノミーが発展するための技術やツールが継続的に開発されるのです。
また、欧州やアジアでもAPIエコノミーの市場規模が拡大しており、特に金融・医療・観光分野などでのAPIの活用が進んでいます。
さらに、クラウドやIoTの普及に伴い、APIエコノミーの成長が今後も期待されています。
日本:金融業界のAPI公開の活発化
日本の金融業界においても、最近ではFinTechの鍵を握るものとしてAPI公開の動きが活発化しています。
これは、金融ビジネスのデジタル化やオープンバンキングの推進などが背景にあります。
例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループが提供する「MUFG API Store」では金融関連のAPIを提供しており、これにより顧客が自社アプリケーションから金融サービスを利用できるようになりました。
また、SBIホールディングスもAPIを活用したデジタル金融サービスの提供を進めており、顧客にとってより使いやすい金融サービスの提供を目指しています。
さらに、日本銀行もAPIによる金融サービスの提供を進めており、今後もAPIエコノミーが金融業界において拡大していくことが予想されます。
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事例①:エクスペディア
ここではいくつかの事例を紹介します。最初の事例はエクスペディアです。
エクスペディア・アフィリエイト・ネットワークを公開
エクスペディアは世界中の旅行商品を提供する世界的なオンライン旅行会社であり、旅行関連のデータや検索機能をAPIとして公開し、エクスペディア・アフィリエイト・ネットワークを提供しています。
APIを利用するパートナー企業はエクスペディアの商品データをリアルタイムで取得可能になり、自社の旅行サービスに組み込めるようになりました。
このAPIを活用することで、パートナー企業はエクスペディアの豊富な商品ラインナップを自社のサービスに取り入れ、ユーザーに最適な旅行商品の提供が可能です。
さらに、APIの利用でパートナー企業は予約処理を自動化することにより正確かつ迅速な予約が可能になり、業務効率化やトラブル防止などに役立っています。
売上に大きく貢献
APIを利用するパートナー企業は、これらを推進することによりサービス向上だけではなく、売上拡大を図れます。
またエクスペディア自身にとってもAPIの公開で新しいパートナー企業を開拓でき、売上拡大につながると期待されています。
事例②:Uber
ここでは、Uberの事例を概説します。
APIの公開
Uberは2014年に、外部開発者向けにUber APIを公開しました。
これにより、他のアプリケーションやサービスとの連携が可能となり、Uberの配車サービスを利用したアプリケーション開発が促進されました。
例えば、飲酒運転を防止するためにアルコール消費者向けのアプリケーションやホテル予約サイトのアプリケーションなどが開発され、利用者にとって便利なサービスが提供されています。
外部のAPIも活用
また、Uber自身も外部APIであるGoogle MapsのAPIを導入することで、ドライバーや利用者にとってより使いやすいアプリケーションを提供することに成功しました。
Uberは、APIエコノミーを活用することで、自社のビジネスを拡大するだけでなく他社との協業を通じて新たなビジネスチャンスを創出しています。
事例③:Google Maps
Googleが提供するGoogle Maps APIは、最も有名な公開APIではないでしょうか。ここでは、その概要を解説します。
各種媒体に対応できる様々なAPIを公開
Google Maps APIは、地図・ルート・ストリートビュー・検索など、多様な機能を持つAPI群です。
このAPIを利用することで、企業や個人が自身のウェブサイトやアプリケーションで地図や位置情報を表示したり、ルート案内機能を提供したりできます。
無料プランと有料プランがある
Google Maps APIは、無料プランと有料プランの2種類がありますが、無料プランでも十分に使用できる機能が提供されています。
有料プランでは、より高度な機能が利用できるほか、高負荷のアプリケーションにも対応可能です。
このように、Google Maps APIはビジネスにとって重要な位置情報を活用するための貴重なツールの一つであり、多くの企業や個人が利用しています。
- セキュリティの確保
- 品質の確保
- API利用規約の策定および確認
- サポートの確認
- 継続性の確認
APIエコノミーの注意点
バラ色に見えるAPIエコノミーですが、その導入に際してはいくつかの注意点があります。ここでは、APIを公開する側と公開APIを利用する側に分けて、注意点を考えてみます。
APIを公開する側の注意点
APIエコノミーにおいて、APIを公開する側が注意すべき点はいくつかあります。
- APIのセキュリティを確保する:不正アクセスやデータ漏洩などを防ぐため、APIの認証・認可・暗号化などのセキュリティ対策を実施する必要があります。
- APIの品質管理:APIが正しく動作しない場合、利用者の不満やトラブルの原因となります。APIの仕様やドキュメントの充実・エラー処理の実装など、品質管理には細心の注意が必要です。
- APIの公開に伴う利用規約の策定:APIの利用にあたっての条件・制限・利用料金などを明確に示し、利用者との契約内容を明確にすることが大切です。
- APIの長期的な戦略策定:APIの仕様変更やサポート終了など、長期的な運用において発生する問題を事前に予測し戦略を策定することで、APIを持続的に運用できます。
公開APIを利用する側の注意点
APIを利用する側も注意が必要です。その主な注意点を以下に示します。
- 利用規約を確認する:APIの利用には利用規約があります。必ず読み、同意したうえで利用するようにします。
- 制限に注意する:APIを利用する際には、APIの制限にも注意が必要です。利用回数や利用時間などの制限について事前に確認します。
- セキュリティに注意する:APIを利用する際には、セキュリティにも注意が必要です。APIのエンドポイントには、認証トークンを含めないようにし、認証情報は安全に保管してください。また自社の情報がAPI提供元に蓄積される可能性があるので、個人情報などはAPI利用に含めないなどの対策が必要です。
- サポートに注意する:APIを利用する際には、サポートにも注意が必要です。APIに関する質問やトラブルが発生した場合、提供元に連絡できるかどうか、サポート対応のレスポンス時間などを事前に確認します。
- API利用の継続性に注意する:APIサービス終了・仕様変更、API提供元のビジネス停止などで、API利用が継続できなくなる可能性があります。複数のAPIを使うなどのリスク低減策が必要です。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
APIエコノミーの成長が期待できる業界
ここでは、今後APIエコノミーの成長が期待できる業界をその理由と共に紹介します。
金融業界
金融業界はAPIエコノミーにおいて成長が期待される業界の一つです。APIエコノミーにより、外部のサービスやアプリケーションに自社のデータを提供でき、ビジネス価値を高めることができます。
また、APIを活用することで、業務の効率化やコスト削減を実現し新しいワークフローやビジネスモデルを構築に結びつけることが可能です。
さらに、顧客のニーズに合わせたサービスを提供し顧客の満足度を高められ、またセキュリティやコンプライアンス面での課題にも対応できます。
これらの利点により、金融業界はAPIエコノミーにおいて成長が期待される業界の一つとなっています。
医療業界
同じく、医療業界もAPIエコノミーにおいて成長が期待される業界の一つです。
APIエコノミーにより、医療機関は患者の健康情報を共有でき、診断の正確性や治療の効率化を実現します。
また、医療保険の支払者など外部のサービスやアプリケーションに自社のデータを提供することで、新しいビジネスモデルを構築できます。
さらに、医療機関は患者とのコミュニケーションをよりスムーズに行うことで患者の満足度を高められ、またデータのプライバシーやセキュリティ面での課題にも対応可能です。
これらの利点により、医療業界も金融業界と同様にAPIエコノミーにおいて成長が期待される業界の一つとなっています。
APIエコノミーの導入で悩んだら
APIエコノミーの導入には、複数のステップがあり、計画的かつ適切な専門知識が必要です。
もしAPIエコノミーの導入で悩んだ場合は、以下のようなアクションを検討してみると良いでしょう。
- 専門家に相談する:APIエコノミーの導入には、技術的な課題だけでなく、ビジネスや法律面での課題もあります。APIエコノミーに詳しい専門家に相談することで、問題の解決や課題の明確化ができます。
- ケーススタディを調べる:APIエコノミーの導入事例を調べることで、成功事例や失敗事例から学べます。自社の状況に合わせて、類似のケーススタディを調べてみましょう。
- プロトタイプを作成する:APIエコノミーの導入前に、プロトタイプを作成して機能をテストできます。プロトタイピングにより、問題点を特定し、改善点を洗い出せます。
- パートナーを探す:APIエコノミーにおいては、外部パートナーとの協力が必要になる場合があります。自社だけでは難しい場合は、APIエコノミーに携わる企業や個人を探して協力を求めましょう。
これらのアクションを踏まえて、APIエコノミーの導入に取り組んでいくことが大切です。
まとめ
以上、APIエコノミーに関してその特徴や注目されている理由・市場動向・活用事例を解説し、今後APIエコノミーの成長が期待できる業界も紹介しました。
見てきたように、APIエコノミーは企業が提供するAPIを利用して外部の開発者やパートナー企業が自社のサービスを開発し、相互に結びついたビジネスエコシステムを形成することで価値を創出するビジネスモデルのことを指します。
APIエコノミーにおいては、APIを提供する企業が自社のビジネスモデルを拡張でき、APIを利用する開発者やパートナー企業は短い時間で高品質なアプリケーションの開発が可能です。
このように、APIエコノミーは革新的なアプリケーションやサービスの開発やビジネスの発展を促進する重要な役割を果たしています。