ビジネスを推進していく中で、顧客をどのように集めていくかは重要なポイントです。どのようにしてターゲットにした顧客にリーチできるかを考える時に、有効な手段の1つがインバウンドマーケティングです。企業側が積極的にアプローチするアウトバウンドマーケティングに比べ、インバウドマーケティングは、顧客からのアプローチになります。
そのため、アプローチしてきた顧客は、最初から製品・サービスへの興味があるため、その後のフォローに違いがあるのです。
ここでは、インバウンドマーケティングが市場でどのように活用されているのかをはじめ、その特徴やアウトバウンドマーケティングとの違い・メリット・成功のポイントなどインバウンドマーケティングに関してさまざまな観点から解説します。
目次
インバウンドマーケティングの成功事例
インバウンドマーケティングのイメージがあっても実際にどのような活用をされているのかよくわからないのではないでしょうか。いくつかの成功事例でイメージをつかんでみましょう。
経営ハッカー
「経営ハッカー」は、2013年にリリースされたメディアです。運営は、クラウド会計ソフトで名前が知られているfreee株式会社が行っています。
経営ハッカーの読者ターゲットは、経営者・個人事業主・会計担当者といったfreeeのソフトウエアの利用者や決裁者になります。彼らにこのメディアを通じて有益なコンテンツを発信することで、常にfreeeとの関係を維持するのです。
読者から見ると、自身が読みたい記事が掲載されていますので、抵抗なくメディアへアクセスします。
また、記事の最下部にはfreeeの提供するソフトウエアやサービスのキャンペーンなどの施策への動線が敷かれています。これによりすでに読者として絞られているターゲットユーザーへ有効なアプローチができるのです。
経営ハッカーは、しっかりとターゲットを限定し、それに合わせて良質なコンテンツを提供します。また、freeeの新規顧客の獲得を建設的な動線で誘導し可能にしています。
バズ部
「バズ部」は、コンテンツマーケティング業のルーシー株式会社が、コンテンツに関連したマーケティング情報を発信しているサイトです。
Webマーケティングに関して、運用・コンテンツ・SEOなどについて調査をしていると、バズ部が運営するサイトを目にする方も少なくありません。
バズ部のコンテンツは、オウンメディアで情報を発信している企業に向けたものや、今以上にコンテンツマーケティングにこだわりたいと考えている企業にぴったりの情報が掲載されています。
バズ部のサイトにあるコンテンツをみてより詳しい情報を知りたいユーザーに向けて、「バズ部式コンテンツマーケティング」という無料のコンテンツブックを提供することで顧客やファンの獲得を可能にしています。
サイボウズ式
サイボウズ株式会社が自社メディアとして情報発信しているのが、「サイボウズ式」です。
このメディアのターゲットは自社製品に興味を持つ見込み顧客ですが、製品のアピールをするのではなく、広く組織や働き方について発信しています。これによって、ビジターが知りたかった情報にリーチできるのです。
将来サイボウズ製品の導入を検討する可能性のあるビジターに対して、仕事に対する考え方・社内コミュニケーション・組織の作り方など興味を惹かれる話題をテーマにしたコンテンツを発信しています。
これにより、売り上げに直結するものでないにせよ、サイボウズの知名度はあがります。そして、いざサービス検討になった時に、候補の1つとして名前が上がり、その際にはすでにファンもいるという構図ができ上がっているかもしれません。
レシピノート
飲料メーカーであるキリンが行っているのが「レシピノート」です。これは、その名の通りレシピを中心にしたメディアです。
キリンはすでにブランドイメージを確立していますが、その上でオウンメディアを展開し、より生活に密着したイメージを作り上げています。
レシピノートの大きな特徴は、キリン製品を宣伝していないことです。もちろん全くないわけではなく、レシピのメモとして、その料理にあう飲み物としてキリン商品をすすめています。
しかし宣伝感はほとんどありません。プッシュの強い宣伝・広告をよしとしない顧客層が増えている昨今の市場状況に合わせた対応として注目できます。
キリンでは多くのタッチポイントを得るため、レシピノートだけでなく、InstagramなどのSNSやレシピノート以外のメディアプラットフォームも提供しています。
ここでは、それぞれに合わせた情報発信や媒体に合わせたコンテンツが特徴的です。
北欧、暮らしの道具店
北欧雑貨をテーマにしたECサイトに、ブログ形式でインテリアに関するコンテンツを掲載しているのが「北欧、暮らしの道具店」です。
もともとこのサイトの取り扱う製品には特徴があるので、ファンがつきやすいのですが、それに加えコンテンツの配信がファン獲得を後押ししました。
多くのECサイトが製品情報のみを掲載している頃に、インテリアに関するコンテンツ配信を始めたことで一気にファンが増え、現在の形にまで成長したのです。
コンテンツは商品紹介をメインにしていますが、そこに商品に関わる雑談や一押しをしているスタッフの愛用品紹介といった視点を変えたテーマでコンテンツを掲載しています。
土屋鞄製造所
「土屋鞄製造所」は、公式サイトへの流入元として、ブログとFacebookを開設しています。鞄という写真を見せることで商品イメージをしやすいものだからこそ、あえて商品紹介に画像などを多用しています。
そこに、革製品の使い方・お手入れの方法・他の製品との組み合わせ提案などをブログ記事として掲載することで、公式サイトとの繋がりを作り出しているのです。
このサイトは、リリースしてすぐに人気となり、土屋鞄・鞄好き・革製品好きなど多くのファンを集めています。
アイリス暮らし便利ナビ
さまざまな家庭用製品を売り出すアイリスオーヤマが主婦向けに提供している情報サイトが「アイリス暮らし便利ナビ」です。
近年は家電製品に力を入れていることもあり、ターゲットを主婦にしたことで人気があります。
料理レシピや家事を上手にこなすヒントといった生活全般に関する情報を提供しています。
企業からの情報だけでなく、ブロガーによる記事や会員からのクチコミ情報などを掲載することで、第三者の目線やユーザー参加型のコンテンツも多いです。
これらのコンテンツから、アイリスオーヤマのECサイトへ誘導することで、アイリスオーヤマ自体のファン層を広げています。
インバウンドマーケティングとは?
インバウンドマーケティングは、顧客が企業やブランドに自発的にアプローチすることで長期的な関係を築ける手法です。
最初に顧客が企業やブランドに関心を持つことから始まり、その情報を収集し、コンテンツを利用してもらうという観点で展開されます。
そのため、有用な情報・コンテンツを提供することが重要です。オウンメディアのブログ記事・ソーシャルメディアでの投稿・Webコンテンツなどを発信していく必要があります。
インバウンドマーケティングは、顧客との関係性強化を目的としていますので、一方的な情報配信より、顧客との対話が可能なQ&Aやフィードバックの受け皿の機能を持たせることが多いようです。
また、コンテンツ自体はSEOを意識し、顧客が関心を持つキーワード・トピックを中心に制作されています。
アウトバウンドマーケティングとの違い
インバウンドマーケティングに対し、その逆の手法としてアウトバウンドマーケティングがあります。
アウトバウンドマーケティングは、顧客に対して商品やサービスを売り込むことで始まる手法です。最もわかりやすいものとしては、テレビやラジオのCM・新聞や雑誌の広告などがあります。
これらは、短期間で成果を獲得しやすい手法として、ドリンクやお菓子といった一般コンシューマ向けの商品にはぴったりです。
一方で、興味のない顧客によっては、不要な情報であるため、一方的なコニュニケーションになりがちであることは否めません。
アウトバウンドマーケティングは、自社製品を探している顧客を見つけ出す手法。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
インバウンドマーケティングの必要性
なぜ、インバウンドマーケティングは必要なのでしょうか。それには、以下の3つが影響しています。
- 企業の一方的なアプローチは敬遠される
- インターネットの普及
- ユーザ行動の変化
これらは、それぞれが関連付いています。では、詳しくみてみましょう。
企業の一方的なアプローチは敬遠される
多くの情報が身の回りにある状態において、自分にとって不要な情報はできるだけ排除したくなります。さらに、自分で得られるようになると、ますますその傾向は強くなるでしょう。
また、1つの情報を一方的に企業から得るのでなく、多方面から得ることで、見方を変えた情報となる可能性があります。
そのため、企業の一方的なアプローチは敬遠される傾向にあるのです。
インターネットの普及
インターネットの普及は、インバウンドマーケティングの必要性を加速させました。
これまでは、広告などの企業側からの情報をもとに顧客は必要な製品情報を集めていましたが、インターネットを介することで検索で簡単に情報が手に入ります。
さらにそれらの情報は、企業が発信するものだけではありません。利用者の口コミなども含まれ、多種多様な情報になっています。
ユーザー行動の変化
さまざまな情報が提供されることでユーザは簡単に製品情報を入手できるようになりました。しかし、それだけでは終わりません。
思っていた製品情報に加え、同様な製品との比較情報も手に入るので、まずはサイトで仕様を比較してから、購入を検討するというフローに変わったのです。
また、製品情報検索の仕方も変化が見られます。これまでは、製品名で検索していたものが、自分のニーズから検索するようになりました。
こういったユーザー行動の変化は、企業の情報提供の仕方を大きく変えたといえるでしょう。
マーケティング戦略の事例はこちら
インバウンドマーケティングに適している商品・サービス
インバウンドマーケティングの活用に適している商品・サービスはどのようなものでしょうか。一般的には以下の3つといわれています。
- 購入までの検討期間が長い
- 購入前に情報収集をする
- リピート購入が見込まれる
では、それぞれについて説明します。
購入までの検討期間が長い
購入までの検討時期が長い商品・サービスは、一度決めてしまうと別のものに乗り換えづらい製品であったり、高額だったりします。
このような製品では、顧客はさまざまなメディアを利用して、多くの情報をあつめ慎重に検討を行います。
複数の製品情報をそれぞれ集めて比較検討するといったことも行うでしょう。
このような情報の発信には、インバウンドマーケティングが適しています。
購入前に情報収集をする
購入前に集める情報は、製品仕様だけとは限りません。
企業で購入するのであれば業務との親和性が気になるでしょうし、個人で購入するのであれば実際の使用感を知りたくなります。
これらの情報をより信頼性高く提供するには、インバウンドマーケティングが向いています。
リピート購入が見込まれる
一度購入した製品をリピート購入する場合には、製品自体の信頼も大切ですが、ファンとして気に入ってもらっていることも重要です。
そのため、ファンを作りやすいインバウンドマーケティングが向いているといえるでしょう。
メリット
ここでは、インバウンドマーケティングのメリットについて説明します。
インバウンドマーケティングのメリットはいくつかありますが、その中で特に強調したいポイントがあります。
コストがかからない
インバウンドマーケティングは、広告費を使ってビジターを引き込むのではなく、コンテンツやSEOなどを通じてトラフィックを獲得します。そのため、広告費などが不要です。
また、インバウンドマーケティングでは、コンテンツが継続的に価値を提供していますので、そのままカスタマーエンゲージメントが得られます。これもコスト削減に大きく影響します。
インバウンドマーケティングではコンテンツの制作費用がかかってしまいますが、一度制作したコンテンツは複数の形式やプラットフォームで再利用できるので、コストの効率化も可能になるのです。
SNSでの拡散が期待できる
インバウンドマーケティングにおいて、ブログなどで提供されるコンテンツは汎用的な情報であることが多いため、SNSで拡散されることが期待できます。広くSNSで拡散されることで、オウンメディアへ自然に誘導されますので、誘導のために施策をする必要がありません。
豊富な顧客データが得られる
インバウンドマーケティング手法でコンテンツが提供されると、一方的な情報提供ではなく、双方向であったり何らかのやりとりが期待できるものであったりすることが多いため、顧客データが取りやすくなります。
コンテンツマーケティングとの違いは?
インバウンドマーケティングと同様な使い方をする手法に、コンテンツマーケティングがあります。
インバウンドマーケティングではコンテンツが重要視されることが多く、同じマーケティング手法と考える方は少なくありません。
では、コンテンツマーケティングとはなんでしょう。コンテンツマーケティングは、自社サイトやSNSなどで発信する情報を管理し、効果的な情報発信を行うものです。これにより、ターゲット顧客に自社を見つけやすくします。
コンテンツを使って顧客を集めることに特化しているマーケティング手法であり、インバウンドマーケティングの関係性で見ると、インバウンドマーケティングの手法の1つです。
マーケティングフレームワークの事例はこちら
インバウンドマーケティングで重要な4つのステップ
では、インバウンドマーケティングはどのように進めていくのでしょうか。インバウンドマーケティングの進め方は大きく4つのステップに分かれています。
ここでは、インバウンドマーケティングのそれぞれのステップについて説明します。
Attract(惹きつける)
まず、相手を惹きつける必要があります。どのような商品であっても、まずはその商品自体の存在を知ってもらわなければなりません。
ターゲットとしている顧客とのタッチポイントを増やし、商品を知ってもらうことが最初です。
インバウンドマーケティングでは、企業側がアピールするのではなく、顧客が自ら興味を持つコンテンツを発信することで、顧客を惹きつけます。
そのため、ターゲット顧客が、どのような媒体を見てどのようなコンテンツを求めているのかといった情報を入手することが重要です。
Convert(見込み客化する)
オウンドメディアやSNSなどにアクセスしてきた顧客をそのまま見込み客化する必要があります。
初回アクセスだけでなく、再度訪問したい・そのメディアを見たい・商品の詳細をもっと知りたいといった次の行動を促すコンテンツ作成が重要です。
人が集まった後は、見込み顧客化させる必要があります。
Close(顧客化する)
見込み客化ができたら、次は顧客化です。見込み客を顧客にするには、自社商品を選んでもらうための情報をしっかりと提供することが重要です。
例えば、オウンメディアに継続的な情報を提供したり、新たな視点での情報を提供したりすることで、商品の必要性をアピールします。
また、購入や契約に関する情報として、詳細の機能スペック・価格・購入後のサポートといった情報も後押しする情報になり得ます。
Delight(喜ばせる)
最後は、ファン化です。購入した後に継続して顧客との関係をつくることで、さらに別の顧客への良い影響を与えるだけでなく、長期的な顧客になり得ます。
顧客を喜ばせることは、自社に対する信頼も高めます。ここなら安心と思ってもらえる関係性を構築しましょう。
成功させるためのポイント
インバウンドマーケティングを成功させるためには、いくつかのポイントがありますが、その中でも特に注目したい3つのポイントについて説明します。
ペルソナを設定する
インバウンドマーケティングではいかに顧客が期待する情報を提供するかが成功の鍵になります。そのためには、顧客がどのようなプロフィールで、どういった情報を欲しがっているかをできるだけ明確したいと考えるでしょう。
これらを確定させるために、まずペルソナを設定することが重要です。ペルソナが明確であればそれだけコンテンツのマッチ度も高くなります。
購入前の段階ごとにコンテンツを配信する
インバウンドマーケティングでは、さまざまステージの顧客がコンテンツを利用します。そのため、ある程度ターゲットを絞ったコンテンツを、ターゲット顧客へ配信することが重要です。
購入前にはいくつかの段階がありますので、段階ごとにコンテンツを作成し、その顧客に合わせて配信するようにします。
コンテンツは継続的に配信する
インバウンドマーケティングは、継続的な顧客との関係を維持することを、目的の1つにしています。継続的な関係を構築するには、継続的に新しいコンテンツを配信する必要があります。
コンテンツマーケティングの事例はこちら
ユーザーが必要な情報を適切なタイミングで届けることが重要
インバウンドマーケティングでは、ユーザーが何らかの情報を入手しようと行動を起こしたときに、ニーズにあった情報をそのタイミングで届けなければなりません。
ですので、常にアンテナを張って、ユーザが必要な情報を得たいと考えた時に、どのような方法で入手するかを想定し適切なタイミングを図ることが重要です。
自社の商品・サービスに合ったマーケティングを展開しよう
マーケティングの手法はいくつもあります。今回はインバウンドマーケティングの説明をしましたが、これだけではありません。
重要なことは、自社の商品・サービスにあったマーケティングを展開することです。
企業によっては、複数のマーケティング手法を並行して行ったり、続けて行ったりすることもあるでしょう。
そういった場合であっても、どの商品・サービスに対してどのような効果を期待してマーケティングを行うのかを見極める必要があるのです。
まとめ
インバウンドマーケティングは、顧客自らの行動が引き金になって一連の流れがスタートします。
そのため、企業側がプッシュする方法とは異なり、常に企業は顧客を観察しておくことが重要です。
顧客のニーズや変化をみて、適切なコンテンツを適切なタイミングで提供することがインバウンドマーケティングの成功につながります。