個人事業主として順調に事業が拡大し、法人化(法人成り)を検討する方もいらっしゃるでしょう。

一定規模を超えた事業であれば、法人成りをしたほうが税負担が軽くなるケースがあります。

法人成りする際の確定申告手続きは煩雑になるため、事前に流れを把握しておくことが大切です。

この記事では、法人成りした年の確定申告の手続きや法人設立時の流れについて詳しく解説します。

正しい確定申告をスムーズに行うために、ぜひ参考にしてください。

法人成りした年の確定申告の手続き方法を解説

確定申告書類
一般的に、個人事業主から株式会社や合同会社に変わることを「法人成り」といいます。

法人成りした年は、確定申告の流れが煩雑になるため混乱してしまう方も多くいらっしゃるでしょう。

本記事では、法人成りした年の確定申告の手続きについて分かりやすく解説していきます。

法人成りした年の手続き

電卓を使う様子
法人成りした年の手続きは、個人事業主の時と異なる点があり戸惑うこともよくあります。

具体的には、以下の2つのポイントについて把握しておくことが重要です。

  • 法人と個人事業主の収入は分けて確定申告すること
  • 確定申告等の期限を守ること

法人と個人事業主の収入を分けて確定申告する

法人成りした年は「個人事業主の期間」「法人の期間」を分けて確定申告をする必要があります。

法人の設立日前後で、事業に関する収支について区別する事が必要です。

売上の入金や経費の支払いが後払いとなる取引で、法人の設立日をまたぐ場合は、特にご注意ください。

個人事業主として行った仕事の報酬の入金が法人設立後でも、個人事業主として確定申告を行います。

経費についても、個人事業主として発生した経費の支払いが法人設立後でも個人事業主分に含むのです。

また法人設立前に発生した経費でも、法人設立のために支払ったものは法人分となります。

入金ベースや支払いベースで判断すると混乱しやすいので、専門家に相談しながら手続きすると安心です。

法人の確定申告の期限は?

法人の確定申告の期限は「事業年度終了の翌日から2か月以内」です。

また法人の確定申告は、以下の書類の提出を行うことになります。

  • 法人税申告書
  • 法人事業税申告書

個人事業主は通常翌年確定申告を行います。

しかし、個人事業を廃業した場合は自治体が定める期間内に「個人事業税の申告書」の提出が必要です。

自治体によっては定められている期間が非常に短いケースがありますので、速やかに行いましょう。

 

ワンポイント
法人成りした年の確定申告は法人分と個人事業主分を区別して申告する必要があります。

法人成りによる確定申告の変更点

ビジネスマンと電卓

ここでは法人成りによる確定申告の変更点について解説します。

変更点の主なポイントは税金の種類と所得控除です。

税金の種類

個人事業主から法人となった際は、納める税金の種類が変更となります。

個人事業主の場合に主に納めるのは以下のような税です。

  • 所得税
  • 住民税
  • 個人事業税

一方、法人となった場合には以下のような税を納めることになります。

  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税

所得控除

青色申告イメージ

法人となり役員報酬を受け取ると給与所得控除が適用され、有利なケースがあります。

個人事業主の場合に適用されるのは「青色申告特別控除」です。(青色申告の届出をしている時)

「青色申告特別控除」における控除額は、基本的には10万円または55万円、一定条件を満たすと65万円となります。

一方、法人となり役員報酬を受け取った時は、一定条件を満たすことで「給与所得控除」が適用可能です。

給与所得控除額は最低55万円で、給与額が上がると控除額も増えていきます。

法人成りまでに済ませておくべきこと

パソコンと電卓

法人成りまでには済ませておくべき事として主なポイントが4つあります。さっそくみていきましょう。

資産や負債の引継ぎ

個人事業主の時の資産や負債について、法人引き継ぐか否かを決めて必要な手続きを行います。

個人事業主の時の商品在庫や備品などの資産や借入金などがあれば法人へ移行しなければなりません。

売掛金や買掛金の他借入金など可能であれば前倒しで清算しておいてもよいでしょう。

取引先への連絡

取引先には、個人事業から法人となったことは速やかに連絡をします。

再度契約手続きが必要になるケースも多いため、挨拶回りもかねて早めに対応しましょう。

各種契約の名義変更

書類に記入する人

事務所や公共料金保険の契約など、個人名義の契約を法人名義に変更する手続きが必要です。

必要に応じて不動産会社や保険会社相談をしながら、順に手続きをしていきましょう。

また銀行等の口座名義も法人名義に変更します。

法人名義の口座開設には時間がかかったり手数料が必要になったりするため早めの着手がおすすめです。

個人事業主時代の確定申告

法人成りの初年度は、個人事業主としての確定申告も必要となります。

個人事業主時代の資産等を法人に移行した場合、財産の種類に応じて所得税や住民税の課税対象です。

財産の種類によって計算方法が異なります。

そのため、特に法人にうつす財産の種類が多岐にわたる場合は手続きや計算が複雑です。

税理士等の専門家に相談をして対応する方が安心できるでしょう。

 

ワンポイント
法人設立までに個人事業主時代の清算や資産等の引き継ぎ・各種契約の名義変更を済ませましょう。

法人設立までの流れ

定款イメージ

法人の設立は登記すれば完了するわけではありません。

法人の設立完了までにはいくつかのステップを踏む必要があります。大まかなステップは以下の通りです。

  • 会社の基本事項を定める
  • 定款や必要書類を作成する
  • 公証人による定款認証を受ける(株式会社の場合)
  • 法務局で登記申請を行う
  • 登記事項証明書・印鑑証明書を取得する

まず、法人形態や社名などの基本事項を決めます。一般的には「株式会社」または「合同会社」が選ばれる事が多いです。

なお、社名が決まった段階で法人の業務で使用する印鑑の手配もしておくとよいでしょう。

基本事項が決まったらそれらを定款等としてまとめていきます。定款とは法人の組織などについて記載した書面です。

続いて、株式会社の場合には公証人定款認証を受ける必要があります。

定款認証は以下の2つの方法のいずれかで行われることがほとんどです。

  • 印刷した定款を使う方法
  • 定款のPDFに電子署名して送信する方法

合同会社の場合は定款認証の必要はありませんが、定款の作成は必要となります。

定款認証を受けて必要書類の作成も完了したら、残るは法務局での登記申請です。

この登記申請の受付日が法人設立日となります。登記申請後10日程で審査を経て登記が完了します。

登記完了後に登記事項証明書や印鑑証明書が取得できますので、法務局で取得しておきましょう。

法人成りのメリット

ビジネス、成長

個人事業主から法人となる事には様々なメリットがあるといわれています。

ここでは主なメリットを3つご紹介していきますので、順にみていきましょう。

給与所得控除が可能

すでにお伝えした通り、法人成りをして役員報酬を受け取る場合に、一定条件を満たすことで給与所得控除の適用が可能です。

個人事業主として事業を続けるよりも節税できるケースもあります。

従って、事業規模がある程度拡大して安定してきたら法人化を検討するのもメリットがあるといえるでしょう。

消費税納付が2年間免除

消費税の納税の基準は、2年前の売上が基準です。

法人成りした1年目および2年目は、基準となる売上がないため原則、消費税が免除されます。

この免税措置があることも、法人化による節税メリットのひとつといえるのではないでしょうか。

社会的信用度が上がる

オフィス、ネットワーク

上記でご紹介したような手続きを経て、法人となった事は、事業の安定性や継続性を証明してくれます。

個人事業主として事業を行うよりも社会的信用度が上がる事に繋がるのです。

法人化する事で金融機関からの融資も通りやすくなるケースもあります。

また、個人事業主としては取引が難しかった企業と取引できる事もあり、仕事の幅も広げられるでしょう。

 

ワンポイント
法人化するメリットは、税額控除や節税効果および社会的信用度がアップする事です。

法人成りのデメリット

オフィスで悩む様子

ここまで、法人成りする主なメリットをお伝えしてきましたが、当然法人成りにはデメリットもあります。

メリットだけでなくデメリットも把握したうえで、法人成りするかどうかを判断してください。

主なデメリット2つに分けてご紹介していきます。

法人の登記に費用がかかる

個人事業主から法人成りするためには、法人の設立が必要です。

株式会社か合同会社で多少必要となる金額が変わるものの、10万円~20万円前後登記費用がかかります。

法人を設立する際にまとまったお金が必要な事もデメリットと感じる方もいらっしゃるでしょう。

事務や費用の負担が増える

個人事業主から法人となった場合、会計や税務に関する事務作業の負担が増加する傾向があります。

また顧問税理士に申告書作成の依頼をするケースがほとんどですので、そのための費用が必要です。

さらに法人には社会保険への加入義務があります。

法人成りをすると健康保険料と厚生年金保険料などを支払わなければなりません。

従業員を雇うこととなれば、社会保険料の支払いが大きくなり負担と感じる場合もあるでしょう。

 

ワンポイント
法人化の大きなデメリットは事務負荷や社会保険料や顧問料等の費用が増加する点です。

法人設立後の手続き

税務署 提出用紙

法人成りは個人事業主として受注してきた事業を新たに法人として受注していくスタートラインといえます。

個人事業主の廃業や確定申告の他、様々な清算・変更手続きが必要です。

また法人を設立して登記完了後も、複数の公的機関への届出等の手続きが必要となります。

いずれも大切な手続きとなりますので、順に確認していきましょう。

税務署に対する届出関係

税務署では、個人事業主の廃業に関する届出と法人設立に関する届出を行います。

提出する書類の一例は以下の通りです。

個人事業主としての廃業に関する届出

  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書
  • (人を雇用していた場合)給与支払事務所等の廃止届出書
  • (消費税の納税義務者の場合)事業廃止届出書 等

法人設立に関する届出

  • 法人設立届出書
  • 青色申告の承認申請書
  • (人を雇用する場合)給与支払事務所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納期の特例の申請書

都道府県税事務所に対する届出関係

都道府県税事務所では「法人設立届出書」を、法人の定款(写)や履歴事項全部証明書とともに提出する必要があります。

年金事務所に対する届出関係

年金事務所では社会保険に関する届出を行います。添付書類も多いため事前によく確認してください。

一般的に届出に必要な書類は以下のようなものがあります。

  • 新規適用届出書
  • 被保険者資格取得届
  • 被扶養者届
  • 保険料口座振替納付申出書

従業員を雇用する場合の届出関係

法人を設立する際に人を雇う場合は、労働基準監督署ハローワークに届出が必要です。

こちらの届出についても用意する添付書類が数多くあるため事前に確認する事をおすすめします。

具体的な書類は以下のようなものです。

  • 労働保険関係成立届
  • 労働保険概算保険料申告書
  • 雇用保険適用事業所設置届

法人成りで困った場合の相談先は?

握手、取引

個人事業主が法人成りをする際は通常と確定申告の流れが異なったり、煩雑な手続きが必要となります。

特に確定申告や資産・負債の引き継ぎなどは複雑になりがちで自力で行う事は大変難しいものです。

また個人事業主と法人分の収支を適切に振り分けて申告しなければなりません。

この手続き以外にも法人成りをすべきかどうかも含めて、専門知識を有するプロの力を借りることが有効といえます。

確定申告等の税務に関する事は税理士へ、法人設立手続きについては司法書士に相談しましょう。

こうした法人成りや法人設立等について、ワンストップでサポートしてくれる事務所もあります。

専門家のサポートを活用することで、時間的にも労力的にも効率良く法人成りを進める事が可能です。

まとめ

パソコン、ガジェット

今回は個人事業主が法人成りした場合の確定申告手続きや法人設立の流れについて解説しました。

法人成りする際の確定申告では、個人事業主の分と法人の分で収支を分けて申告する必要があります。

また適切に収支を分類して税金等の支払い期限を厳守しなければなりません。

さらに確定申告以外にも、法人成りした時には様々な手続きが発生します。

資産や負債の引き継ぎや各種契約の名義変更、取引先への連絡など数多くの作業も必要です。

法人設立にあたっても、基本事項の決定や定款等の作成・公証人による認証というように登記申請までのステップもたくさんあります。

なお、法人成りするかどうかも含めて設立時期や資本金額などは税額に影響するポイントです。

税理士や司法書士などのプロのサポートを上手に利用して事業を成長させていきましょう。