「BOPビジネス」は途上国における低所得層の問題解決とビジネスの新規開拓を併せ持つ、新しいビジネススタイルです。
まだまだ知っている人は少なく、参入している企業も少ないビジネスです。
しかし、BOPビジネスには大規模な消費者市場があり、まだ競争率も低い市場のためかなりの可能性を秘めているといわれています。
今回はBOPビジネスの具体例や「SDGs」との関係性、ビジネスの成功へのポイントなどをご紹介します。
目次
BOPビジネスの特徴
BOPビジネスは、低所得層を対象にモノやサービスを展開していくビジネススタイルのことです。
まずはBOPビジネスの特徴を解説します。
BOPの意味
BOPとは「Base of the(economic)Pyramid」の略です。
これは、年間所得が購買力平価(PPP)ベースで3,000ドル以下の低所得層のことを指します。
わかりやすくいうと「低所得層」「貧困層」を意味する言葉です。
BOP層は世界に40億人程いるとされ、その割合はなんと7割を占めるといわれています。
BOPビジネスの最大の特徴が、需要と供給のバランスが成り立っていることです。
企業は、世界でも多数を占めるBOP層を対象としたかなり大きな市場に、ビジネスチャンスを拡大していくことができます。
一方、BOP層は自分たちの生活に見合ったモノやサービスを受けることができ、生活水準が上がります。
どちらか一方が得をしたり損をしたりということがない、対等なビジネスといえるでしょう。
またBOP層には格差や貧困など数多くの問題が存在しています。
BOPビジネスでは、BOP層のニーズに応えるモノやサービスを供給することで、これらの問題を解決していくといった特徴もあります。
発展途上国のBOP層が対象
特に発展途上国では、BOP層の抱える問題が非常に多いとされています。
例えば、必要な薬があったとしても、都心部から離れた町では置いておらず、それを都心部に買いに行く為の交通費が必要です。
たとえ町に薬があったとしても、少量で高価(割高)というケースが往々にしてあります。
低所得層であればあるほど、「生活コスト」がかかってしまう負の連鎖が存在するのです。
これらの問題を「BOPペナルティ」と呼んでいます。
BOPビジネスではBOPペナルティを解決する目的もあり、BOPビジネスの特徴でも挙げた対等なビジネスが重要です。
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BOPビジネスが世界的に注目されている理由は?
BOPビジネスが注目されてきた理由として「サスティナブル(持続可能・継続可能)なビジネス」であるということが挙げられます。
BOPビジネスでは、企業の利益だけでなく、途上国や世界経済の発展に貢献できるのです。
従来のイメージとは真逆である、BOP層の購買力は非常に高いことが「The Next 4 Billion(次なる40億人)」で世界中に周知されました。
このことを背景に、様々な企業がBOP層のニーズに対応したサービスなどを提供し、この市場に参入しました。
こういったサービスは企業の利益だけでなく途上国の発展に繋がるものであり、持続可能な事業といえます。
また、経済成長によって期待されているのがBOP層の所得向上です。
このことから、BOP層は将来的な中間所得層になるとされ「ネクストボリュームゾーン」と位置づけられています。
現在、世界の7割を占めるBOP層の消費者市場は、なんと5兆ドルといわれており、かなり大きな市場規模です。
さらに2050年までには、BOP層の割合が8割以上になるとも予測されています。
このネクストボリュームゾーン市場において世界が注目しているのはいうまでもありません。
しかし現状は、まだこの大きな市場に参入できている企業は少ないのが実態です。
そのため、競争相手の少ない、いわば「ブルーオーシャン(競合のいない未開拓な市場)」であるといえます。
こういった点も、BOPビジネスが世界の関心を集めている理由の1つです。
BOPビジネスとSDGsの関係
テレビや雑誌などでも取り上げられることが多くなった「SDGs」という言葉は、実はBOPビジネスと深く関係しています。
「SDGs」は、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標です。
SDGsでは、持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットが掲げられています。
この17のゴールの中には「貧困をなくす」という目標があり、低所得層を対象にしたBOPビジネスはまさに有効な方法です。
また、BOP層のニーズに応えるサービスの供給は、貧困の解消だけでなく、他の分野においてもプラスの効果が期待されています。
教育・健康や福祉・インフラなど「SDGs」が掲げる他の目標も達成できる可能性を持っているビジネスです。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
BOPビジネスに取り組むメリット
ここまでBOPビジネスにおける役割のようなところを多く説明してきましたが、やはり企業としての利益を出すことは大前提です。
BOPビジネスは採算性の確保に長時間かかるため、躊躇する企業も少なくありません。
しかし、BOPビジネスに参入することで企業が受けるメリットもあります。
企業のブランド価値向上が期待できる
BOPビジネスに参入することで得られるメリットの1つが、社会的価値を創造する企業として世界に知ってもらうことができるという点です。
グローバル市場でも企業イメージが向上し、結果として企業のブランド価値の向上につながります。
イノベーションが期待できる
BOPビジネスに必要とされるのは、従来とは異なる技術やアイデアです。
これまでと異なる視点から事業を創出することで、イノベーションが起こることが期待できます。
また、グローバル市場で生き残るためには、革新的なサービス、製品またビジネスモデルを確立することがポイントとなります。
BOPビジネスで生み出したイノベーションがグローバル市場にも広がることが期待できるでしょう。
先駆者利益が見込める
BOPビジネスが注目されていることの1つに、ブルーオーシャン(競合のいない未開拓な市場)であることを挙げました。
いち早くBOPビジネスに参入することで、競争率の低いうちに販売拠点やネットワークを構築することができます。
企業として地位を確立することで先駆者利益を見込むことができるでしょう。
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BOPビジネスの具体例
BOPビジネスに参入している企業はまだまだ多いとはいえません。
しかし、実際に参入し成功した例も数多くあります。以下では日本企業の成功例を紹介します。
住友化学株式会社の例
住友化学株式会社は石油やエネルギー、機能材料、医薬品にいたるまで国内外でも有名な企業の1つです。
そんな企業のCSR(企業の社会的責任)において、会社の事業活動を通じて豊かな社会の実現に貢献することを掲げています。
この考えから生まれた製品の1つが「オリセットネット」というマラリアを予防するための蚊帳です。
これはマラリアを予防するために殺虫剤を練り込んだ糸で作られており、国際機関の支援で100以上の国に供給されています。
3年間効果が持続し、経済的にも非常に優れていることから高く評価され、需要は拡大しました。
そしてタンザニアにて生産を開始し、現地にて最大7000人の雇用を創出しています。
この事業のポイントは雇用の創出による地域経済の発展だけではありません。
マラリアから子供たちを守ることで、健康や教育を受ける機会も創出したといえる事業です。
また年間の生産能力は3000万張りにもおよび、タンザニアでの生産拡大のために新たな会社を設立するなど事業としても成功しています。
日本ポリグル株式会社の例
日本ポリグル株式会社は大阪にある中小企業の1つで、水質浄化剤の製造をしている世界にも知られた企業です。
この企業は、バングラデシュ・タンザニア・ソマリア・エチオピアなど約40カ国に泥水など汚染された水を浄化するタンクを設置しました。
安全な飲水の確保により、途上国の人々の健康を守っています。
さらに特筆すべきは、主に女性が水の訪問販売や集金をする雇用を創出し、女性の社会進出の機会を生み出していることです。
企業としても、売上高は10億円以上で、海外売上高比率は30%にもおよぶ成長企業といえます。
ヤマハ発動機株式会社の例
BOPビジネスが注目される前から、事業展開していた企業がヤマハ発動機です。
1960年頃、ヤマハが初めに取り組んだのは漁業環境の改善でした。
木製の漁船に自社ブランドの船外機を取り付け、さらに漁法を現地の人に教えることで、漁業環境の改善に貢献したのです。
環境が変わったことで現地の人の所得が増え、さらに自社の商品購買に繋がるという成功事例を作り上げました。
その事例をもとに、二輪車・自動車用エンジン・浄水装置など多岐にわたる製品を掲げ、国内外でビジネス展開をしています。
味の素株式会社の例
ガーナでは乳幼児の栄養不足や死亡率の高さが問題とされていました。
この問題解決に取り組んだのが、味の素株式会社です。
これまで培ってきた食とアミノ酸の知見や技術を活用し、乳幼児の栄養改善を実現する製品の開発、さらに栄養教育に力を入れました。
完成した製品をBOP層も購入することのできる価格で供給したり、現地での人材の雇用を実現したりしました。
ガーナだけでなく、同様の問題を抱える途上国にも販路を拡大し、さらなる事業展開が期待されています。
BOPビジネスを成功させるポイント
前述ではBOPビジネスの成功例を挙げました。
しかし、いざ始めたものの、途中で事業継続が難しくなる企業も存在します。
BOPビジネスを成功させるには以下のことに注意し、事業展開していくことが必要です。
現地の文化・ルールを理解する
製品を売るには、現地でのニーズを把握することが必要不可欠です。
しかし、文化もルールも違う市場で我々がニーズを把握することは容易なことではありません。
こういった場合、現地に精通する人材やその地ですでに事業展開している企業などとパートナーシップを組むことが大切です。
それによって現地の人々の特性・ライフスタイルへの理解が深まり、真のニーズに辿り着くことができます。
現地の実態に合わせた事業計画をたてる
BOPビジネスに参入する前に必要なのは、事前調査です。
現地の実態を把握し、実際に収益が見込めるのか、現地での協力体制を整えることができるかなどを調査する必要があります。
事業展開していく中で、不確定要素の部分をいかに綿密に計画できるかによって、成功するかどうかが決まります。
BOPビジネスの課題は?
BOPビジネスは未開拓の部分があり、課題も多いものです。人材の確保や教育、またBOP層においての課題もあります。
しかし、以下のことを理解していれば、こういった課題にも柔軟に対応していけるでしょう。
現地のニーズをどれほど汲み取れるか
BOP層においては、所得や市場流通させるネットワークについて考慮していかなくてはなりません。
製品を販売しても、BOP層が購入することができる価格でなければ販売する意味がなくなってしまいます。
またメディアなどに接触する機会が少ないので、いかに製品を知ってもらうか考えなくてはなりません。
現地の人々のニーズこそが、課題解決の糸口になります。
長期的なビジネスプランが必要
BOPビジネスは短期的な利益は見込めません。
BOP層の抱える様々な問題に長期的に取り組み、その中で利益を生みます。
したがって、長期的なビジネスプランを立てておくことが必要なのです。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
BOPビジネスの今後の展望
日本企業のBOPビジネスへの見方はいいものとはいえません。
その実態は「我が国企業によるBOPビジネスの普及促進と更なる連携強化のための調査業務」という報告書に掲載されています。
その報告書によるとBOPビジネスに魅力を感じる企業は、大企業で17%、中小企業で11%とかなり低いものでした。
この原因の中には、企業のBOP認知度の低さが影響していると考えられます。
企業がBOPに抱くイメージとして以下のようなものがあげられています。
- 儲からない
- 時間がかかる
- 小分けビジネス・低価格・大量販売
こうしたイメージがあるといった意見が多く、中には「儲けてはいけない」など誤解されているケースもありました。
BOPビジネスが広く知られ、深く理解されることが、日本企業のBOPビジネス参入を加速させる方法といえるでしょう。
BOPビジネスへ参入するか悩んだら?
BOPビジネスへの参入を検討していても、成功につながるマーケティング戦略を立てるのは難しいことでしょう。
また、現代のビジネスにおいてマーケティングにデジタル技術を活用することは欠かせなくなっています。
それはBOPビジネスにおいても同様であり、発展途上国でのデジタルマーケティング施策は非常に重要です。
しかし、国内での施策と同じ方法では通用しないということもあり得るでしょう。
海外でのデジタルマーケティング戦略に悩んだらデジマクラスに相談してみてください。
デジマクラスではマーケティングの専門家であるコンサルタントに相談することができます。
相談することでデジタルマーケティングだけでなく、BOPビジネスの事業そのものにも新たなヒントや知見を得ることができるでしょう。
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まとめ
BOPビジネスに参入することは容易なことではありません。
また、ビジネス的な側面だけの理解だけでなく、社会的役割への理解も必要になります。
しかし、こういったことを理解し、事前に準備することで、企業が受けられるメリットはかなり大きいものではないでしょうか。
今後のBOPビジネスのさらなる拡大が期待されます。