「エモーショナルマーケティング」という手法をご存知でしょうか。
この用語自体を耳にする機会は多くありませんが、実際に多くの事例があるマーケティング手法です。
この記事では、エモーショナルマーケティングの特徴を活用事例をふまえて解説します。
エモーショナルマーケティングの手法について詳しく学んだうえで運用しましょう。
エモーショナルマーケティングのメリット・デメリットの紹介についてもぜひ参考にしてください。
目次
エモーショナルマーケティングの概要
はじめに「エモーショナルマーケティング」とは何なのかについて説明していきます。
その特徴を、エモーショナルマーケティング誕生の歴史的背景をふまえ批判的な意見とあわせて理解するようにしましょう。
歴史
「エモーショナルマーケティング」は19世紀初頭のヨーロッパにおいて生み出されたマーケティング手法が起源だとみられています。
これは、日本では1999年に経営コンサルタントの神田昌典氏が提唱したのをきっかけとして周知されるようになった考え方です。
IT社会となりSNSの普及が始まった当時の日本では、企業・消費者相互間のやりとりが重視される流れになってきていました。
そこで注目されたのが「エモーショナル=感情」への訴求が人々の購買行動に与える効果です。
神田氏は著書『あなたの会社が90日で儲かる!』で、消費者は「ニーズ=必要性」だけでは行動を起こさない可能性を示唆しました。
これによりマーケティングにおける「ウォンツ」の重要性が意識され始めるようになったのです。
特徴
エモーショナルマーケティングでは、消費者の必要性ではなく「ウォンツ=欲求」に訴えかけることを良しとします。
つまり、人々の共感を得るマーケティング戦略を実施してウォンツを高める作戦です。
エモーショナルマーケティングは、商品・サービスの宣伝広告に工夫を凝らすことなどで消費者のウォンツを誘引します。
消費者のニーズとウォンツは必ずしも比例するわけではなく、いかに消費者の感情・共感に訴求するかにかかっているでしょう。
エモーショナルマーケティングとは、人々の心理を利用したマーケティング手法なのです。
批判
エモーショナルマーケティングに対し、批判的な意見が寄せられることがあります。
それは「エモーショナルマーケティングは誇大広告になるのではないか」という見方です。
この手法を、商品・サービスの偽った魅力を宣伝し消費者を騙して購入させるものだと誤認することから生まれる批判でしょう。
エモーショナルマーケティングの特徴を正しく理解し適切に活用すればその誤解は解消するはずです。
このことについては、次の項目で詳しく説明していきます。
人間の心理を意識したマーケティング
確かに、エモーショナルマーケティングはニーズが無くても宣伝次第で消費者のウォンツを喚起できる効果を持つ手法です。
しかし、エモーショナルマーケティングの狙いは人々のウォンツを刺激することです。
購買行動の決定権はあくまでも消費者にあり、商品・サービス購入を強制するわけではありません。
いかにして異なる価値観・判断基準を持つ人々の感情に訴えかけ共感を得るかは、原始から続くビジネスの大きなテーマの1つです。
当該商品に関心の無い人々にその魅力を最大限にアピールして顧客を獲得しようとするのはマーケティングの基本になります。
ニーズの無い消費者の誤認を誘うような誇大広告は、エモーショナルマーケティングの本質ではありません。
また、SNSなどでの情報収集が一般的になった現代において誇大広告を行っても思うような効果は得られないでしょう。
エモーショナルマーケティングは、人々の心理を意識したマーケティングです。
エモーショナルマーケティングでは、共感を呼ぶような適切な宣伝を行うことで消費者に商品の必要性を感じさせます。
これはウォンツを購買行動の起点としてニーズにつなげる手法であり、さまざまな場面で活用できる有用なマーケティング戦略なのです。
エモーショナルマーケティングの活用事例
次に、エモーショナルマーケティングの活用事例について解説します。
これを知れば、エモーショナルマーケティングがどのような場面で有効的に利用できる手法かを理解しやすくなるでしょう。
エモーショナルマーケティングが活用されている4つの具体例は以下のとおりになります。
キャッチコピー
分かりやすい例として挙げられるのがエモーショナルマーケティングの「キャッチコピー」への活用です。
提唱者の神田氏が著書において紹介しているのが、エモーショナルマーケティングを航空券のセールスに活用した事例になります。
以下2つのキャッチコピーでは、1の例は2の例の10倍にも及ぶ宣伝効果を生み出しました。
- 「まだ、ムダ金に経費を使いますか?」
- 「経費削減にはまず航空券から。航空券予約前にぜひご一読を!」
2の例と比べ、1の例では「ムダ金」というインパクトのある言葉を利用して消費者の注目を瞬時に集めたのです。
また、大手スーパーマーケットチェーン「西友」のキャッチコピーもエモーショナルマーケティングの一例として挙げられます。
西友は「低価格・高品質」という自社の特徴を「安いクセして。」というキャッチコピーで表現しました。
キャッチコピーでは、限られた短い文言で端的に商品の魅力を表現しなくてはなりません。
商品情報をただ羅列するだけでは人々の心をうまく惹きつけるのは非常に難しいでしょう。
エモーショナルマーケティングマーケティングの効果は、このような場面で真価を発揮します。
商品・サービスの特徴を、広告などにおいて消費者の感情を揺さぶるキャッチーな言い回しやテンポで表現するのです。
これは、SNSを利用してより多くの消費者に共感してもらい購買行動につなげることができると考えられます。
キャラクター
エモーショナルマーケティングの効果を活かした「キャラクター」を利用するのも有用なマーケティング手法です。
これはまず多くの人々に愛されるキャラクターを作成し、ファンが定着したらそのキャラクター商品の開発を行います。
こうすることで消費者の購買行動が促され、キャラクターと商品の人気は比例して向上し大きな利益を生み出すでしょう。
キャラクターをマーケティングに用いる手法はテレビCM・生活雑貨・ゲームなどさまざまな分野に応用可能です。
これを活用すれば、その分野の既存顧客層だけでなくキャラクターのファンを新規顧客に取り込むことができるといえます。
商品パッケージ
エモーショナルマーケティングは「商品パッケージ」に活用するメリットが大きい手法です。
商品のイメージを作り出し、それをビジュアルで表現する商品パッケージを利用して消費者心理に訴えかけます。
これは消費者へ商品の魅力を的確にアピールしやすく、大きな関心と話題性を呼ぶことが期待できる効果です。
心理効果を利用して人々の目を引く商品パッケージは、売り上げに大きく寄与するといえます。
注目を集める商品パッケージは、「映え」が意識されるSNSにおいても大きな反響を得られるでしょう。
消費者心理
人々は、行為を制限・禁止されたと感じるとその行為に対する欲求がさらに増す特性を持つものです。
また、中身が分からない・何が出てくるか分からないという緊張感も消費者の購買に対する欲求を高める効果があります。
その消費者心理を利用するのもエモーショナルマーケティングの有効活用法です。
制作者の意図と反する文言を記載することや、逆にあえて一切情報を記載しない方法などが実際に用いられています。
同一のパッケージ商品のみを陳列した自動販売機の例では、多くの消費者の興味を惹きつけ大きな話題になりました。
人々の本質的な感情を把握してビジネスに活かすエモーショナルマーケティングは、さまざまなジャンルで採用される手法なのです。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
エモーショナルマーケティングはBtoBには適さないのか
BtoBに関するエモーショナルマーケティングの可否については見解が2つに割れています。
エモーショナルマーケティングはウォンツに重きを置いた戦略を行うものです。
しかしBtoBでは、基本的に消費者の購買行動の起点はニーズだと捉えます。
また、BtoBは意思決定は個人的な感情が大きく関与しないように複数で行われることも特徴です。
BtoBにおいては、欲求だけでは必要性が生まれず合理性を重視すべきだという考え方になっています。
この考え方に基づくと、ビジネス全体の決定局面においてウォンツは基準になりません。
エモーショナルマーケティングはBtoBに適さず、消費者が購買意志を決定する1つの契機だということになるでしょう。
一方で、BtoBの決定局面においてもエモーショナルマーケティングが有効だとする見方もあります。
個人が商品に対して抱く「好き」・「嫌い」の感情は、消費者の購買行動に大きな影響を及ぼすことは否めません。
消費者の企業に対する信頼の大きさや、企業理念への共感を得ることで期待できるメリットが多い場合もあります。
BtoBにおけるエモーショナルマーケティングの有用性はどのような局面かによって変わってくるでしょう。
企業の状況や商品・サービスの性質によって効果的な方法をしっかりと検討すべきだといえるでしょう。
マーケティング戦略の事例はこちら
エモーショナルマーケティングの手法
エモーショナルマーケティングの特徴と事例を確認できたなら、続いて実際の手法について説明していきましょう。
エモーショナルマーケティング実施に必要なのは以下2つの手法です。
この手法を行うために必須となるニーズ・ウォンツ分析についてもあわせて解説していきます。
チラシや広告の反応を分析
1つ目の手法として、チラシや広告に対する消費者の反応を分析してより共感を得られる内容にしていきます。
チラシ・広告は消費者の感情に直接訴えかけることができるものです。
記載する言葉・文章だけでなくデザイン・レイアウトに至るまで消費者の心を強く掴む内容になるよう工夫を凝らしていきます。
消費者がどのようなことに価値を見出すのか、そしてそれをどのように消費者の感情に訴えかけ共感を得られるのかを考えましょう。
購買行動に合わせた設計図を作成
チラシ・広告への反応分析ができたら、次に行うのは消費者の購買行動に合わせた設計図を作成することです。
購買行動を促進するには、適切な段階を踏んで消費者にアプローチする必要があります。
これを「ツーステップマーケティング」といい、BtoBを含めさまざまな宣伝・広告で活用されている手法です。
例えば、いきなり購入を提案するのではなくその前段階として無料トライアルなどで実際に体験してもらうことから始めます。
こうすることで顧客の心理的なハードルが下がるのを利用し、購買行動につなげるのです。
消費者の購買行動に合う設計図を作成すれば、大きな利益を得られることが期待できます。
ニーズ・ウォンツ分析の実施
エモーショナルマーケティングを活用するためには、「ニーズ・ウォンツ分析」を実施しましょう。
「ニーズ・ウォンツ分析」を行い購買行動促進の糸口を掴むことで、以上2つの手法を行うのが容易になります。
「ニーズ・ウォンツ分析」の具体的な実施方法は、まず「ニーズ=必要性」と「ウォンツ=欲求」という2つの軸を設定します。
そしてその軸のどこに自社商品・サービスが位置しているのかを分析し、ニーズ・ウォンツのバランスを調整していきます。
消費者の購買行動を促すには、ニーズを満たす商品をウォンツを刺激する宣伝方法でアピールすることが不可欠なのです。
マーケティング戦略の事例はこちら
エモーショナルマーケティングを行うメリット
エモーショナルマーケティングの適切な利用には大きなメリットがあります。
ここからはエモーショナルマーケティングを行うことで得られる2つのメリットを紹介しましょう。
ファンを獲得できる
エモーショナルマーケティングによるメリットの1つ目は、多くのファン獲得が期待できることです。
エモーショナルな部分に訴求し共感を得て獲得したファンは、企業にとって優良顧客となります。
企業および当該商品・サービスに心酔するファンは、自ら進んで継続的な購買行動やSNSなどを利用した宣伝をしてくれるでしょう。
また、企業や商品を心から愛する顧客に商品開発へ参加してもらえば商品の品質向上に良い影響を与えるのも大きなメリットです。
購買行動を促すことができる
消費者の購買行動促進効果があることがエモーショナルマーケティングによる2つ目のメリットです。
人々の持つ「欲求=ウォンツ」という感情を的確に刺激すれば、多くの共感を得て収益につながります。
これを利用した例が「インフルエンサーマーケティング」と呼ばれる手法です。
インフルエンサーおすすめの商品・サービスはそのファン層からの絶大な支持を得られる場合が多くあります。
また、好ましい人物が実際に使用している商品は信頼性を高める効果も見込めます。
SNSなどで紹介され人気商品となった例は、エモーショナルマーケティングの利点を活かした結果によるものです。
インフルエンサーの起用については、その不祥事も考慮して責任を持って選出するようにしましょう。
エモーショナルマーケティングを行うデメリット
エモーショナルマーケティングの活用を検討する際には、デメリット面もしっかりと把握しておくべきです。
ここからはエモーショナルマーケティングにおいてデメリットといえる2つのポイントを説明します。
万人受けしづらい
エモーショナルマーケティングで反感を買うような文言を利用する理由は、多くの消費者に衝撃を与え話題を集めるためです。
一定の傾向はあるとはいえ、人々の感情の動きはそれぞれ異なっています。
同じ事象だとしても、ある人は深く感動し別の人は不快感を抱くのは往々にしてあり得ることです。
だからといってありきたりな言葉を用いて宣伝してもエモーショナルマーケティングの効果を十分に発揮することはできません。
エモーショナルマーケティングは万人の支持を得られるわけではないことを理解したうえで行いましょう。
数値化できない
エモーショナルマーケティングにおいては、「感情」・「共感」といった常時揺れ動く不可視なものに重点を置きます。
これを実施することによって確実に成果が得られるとは限らず、効果が現れるまでにある程度の時間を要するのも特徴です。
効果を得られたと考えられる際も、消費者の「感情」・「共感」の程度を数値化して確認することは非常に困難をともないます。
エモーショナルマーケティングの運用は、長期的な視点を持って計画的に行うべきです。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
エモーショナルマーケティングを行う際の注意点
エモーショナルマーケティング実施検討の際に注意するポイントを紹介します。
エモーショナルマーケティングは顧客分析をしっかりと行い、どの層に向けてアピールしていくかを明確にするのが大切です。
目的に合った方法でなければ、関心よりも反感を集めるプロモーションになってしまう危険性があります。
既存顧客か新規顧客かによっても手法を使い分けるべきでしょう。
また、エモーショナルマーケティングにおける宣伝方法は奇抜であるほど良いというわけではありません。
マイナス印象が強いものだとSNSなどを介して根強いマイナスイメージが定着してしまい、払拭するのは困難になります。
あまりにも公平性を欠く内容や、エモーショナルマーケティングの過度の利用についても考えものです。
しつこい宣伝と捉えられてしまい、嫌悪感を抱かれることが考えられます。
さらに、エモーショナルマーケティングは万人受けしないことや長期的運用が必要なことなどのリスクへの対策も欠かせません。
エモーショナルマーケティングでの「感情」の重要性をしっかりと理解し、目的に応じて柔軟に対応することが求められるでしょう。
エモーショナルマーケティングで悩んだら
エモーショナルマーケティングはすでに多くの商品・サービスの宣伝方法に活かされている手法です。
これへの否定的意見やデメリットもありますが、適切に活用できれば消費者の心を強く掴み心強いファンとなってもらえるでしょう。
エモーショナルマーケティングの手法には、企業経営や人々の感情に関する専門的な知識を要します。
エモーショナルマーケティングで悩んだ時は、デジマクラスへご相談ください。
プロのコンサルタントが適切なエモーショナルマーケティングについてご提案いたします。
マーケティング戦略の事例はこちら
まとめ
エモーショナルマーケティングとは消費者の「欲求=ウォンツ」を利用した手法です。
これは長い歴史を持ち、現代においてもさまざまな分野で活用されています。
エモーショナルマーケティングには批判やデメリットも存在しますが、多くの活用事例から分かるとおり有用性の高いものです。
エモーショナルマーケティングにはマーケティングの知識および人々の感情への深い理解が必要な場面が多々あります。
エモーショナルマーケティングに関する疑問はデジマクラスへお問い合わせください。
適切な手法で消費者の心に訴求し、大きな利益を生み出しましょう。