小売店やコンビニチェーンなど、消費者が日々様々な商品を購買するスポットでは、より多くの商品を効率的かつ大量に販売することを目指します。
そして、商品の販売・マーケティング戦略を立案する上で大切となる要素に「リフト値」があります。
リフト値をはじめとする様々な指標を活用することで、各商品の売上げ最大化が期待されるのです。
この記事では、リフト値の計算式や関連する指標、活用シーンなどについて詳しく解説します。
目次
リフト値のあらわすもの
リフト値とは、ある特定の商品(A)を買った人が、別の商品(B)を一緒に買う確率がどの程度かを示す数値です。
商品を提供する側にとっては、商品の陳列や組み合わせを行う際、売上げ効率を最大化させるための指標として用いられます。
リフト値が高ければ高いほど商品AとBを購買する際の相関関係が強いとされるので、商品Aの近くにBを配置することで、販売効率が高まるのです。
また、商品Aの購入者にはBの、また商品Bの購入者にはAのプロモーションを行うことでそれぞれの購買率向上が期待されます。
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リフト値とあわせて確認すべき指標
リフト値とあわせて確認すべき指標について解説します。
支持度
支持度(サポート)は、商品を購入した全体の人数のうち、商品Aと商品Bの両方を買った人数を示す指標です。
例えば、全体の人数100人のうち、商品AとBの両方を買った人数が10人だとすれば支持度は10%となります。
支持度が高い場合、商品AとBの組み合わせによる販売がその店の売上げ全体に与える影響が大きくなるのです。
確信度
確信度は信頼度(コンフィデンス)とも呼ばれ、片方の商品(A)を買った人が、それと同時にもう一つの商品(B)も買う確率を示す指標です。
なお、2つの商品を購入した際、一方の商品からみた他方の商品の確信度はそれぞれ異なります。
例えば、上記の支持度と同様、全体の人数が100人とします。
そのうち商品Aを買った人が20人、商品Bを買った人が25人、両方買った人が10人の場合を想定します。
商品Aからみた商品Bの確信度は(10人/20人=50%)となります。一方、商品Bからみた商品Aの確信度は(10人/25人=40%)となるのです。
確信度が高ければ高いほど、商品を併売できる可能性が高いと判断されます。
リフト値の計算式
リフト値の計算式は、上述した支持度と確信度と同じ前提を置いた場合、次のように示されます。
(商品AとBの両方買った人数/商品Aを買った人数)/(商品Bを買った人数/全体の人数)
例えば、全体の人数が100人、商品Aを買った人数が20人としましょう。
また、商品Bを買った人数が25人、AとBの両方を買った人数が10人とします。その場合、(10/20)/(25/100)=2.0となりますね。
一般的に、リフト値が1.0を超えた場合に、商品AとBの関係性には一定の意味があると評価されます。
さらに2.0を超えると、両商品の関係性は非常に高いと判断されるのです。
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リフト値の活用シーン①:バスケット分析
バスケット分析とは、消費者が買い物をする際、特定の商品と同時に購入することが多い商品を分析する解析手法です。
バスケット分析の「バスケット」とは、その名のとおり買い物かごを意味しています。
買い物かご、すなわちバスケットの中にある同時に購入された商品を分析することで、消費者の購買傾向が把握できます。
具体的な対策としては、販売に力を入れるべき商品を特定したり、キャンペーン企画を立案したりといった戦略が考えられるでしょう。
買い物をした顧客の人物像やライフスタイルが明らかになれば、個別の対象者へのアプローチ手法が検討可能となり、店内の商品配置の変更もできます。
活用する指標
バスケット分析を行う上で活用される指標は4つ挙げられます。
前述した支持度、確信度(信頼度)リフト値に加えて、「期待信頼度」が指標となります。
期待信頼度とは、全体人数の顧客のうち商品Bを購入する割合を示したもので、計算式は下記のとおりです。
期待信頼度 = 商品B購入者数/ 購入者全体数
上記の前提を当てはめると、25/100=25%となります。
分析方法
次に、バスケット分析における具体的な分析方法について解説します。
まず、消費者が実際に買い物をした前提で、上記4つの指標を計算しましょう。
その計算結果に相関性の数値を当てはめて、商品の併売傾向を可視化します。
具体例を挙げてみると、全体の購入者が100人で、購入者が購入した商品の内訳を以下のとおりとします。
- 商品X:25人
- 商品Y:60人
- 商品Z:40人
- 商品ZとXの両方:20人
- 商品ZとYの両方:20人
その場合の指標は次のようになります。
【比較1】商品Xと商品Z 支持度:20% 信頼度:80% リフト値:2.0
【比較2】商品Yと商品Z 支持度:20% 信頼度:33% リフト値:0.83
上記の比較1と2をみると、どちらも支持度は同じ値ですが、確信度は全く異なる結果となります。
商品Yは単独で購入される割合が高いので、比較2における信頼度は低いことがわかりますね。
さらに、リフト値をみると、比較2は1未満となります。
商品Zは商品Yと同時購入されるよりも、むしろ単独で購入されやすい商品だといえるでしょう。
一方、比較1では、商品Zは単独で購入されるよりも商品Xと同時に購入されるほうが2倍ほど多いと判断できます。
このように、消費者の購買傾向を分析することで、より効果的なマーケティング手法への改善が期待されます。
「おむつとビールの法則」
バスケット分析を語る上で、よく知られているのが「おむつとビールの法則」です。
これは、1992年にアメリカのコンサルティング企業が実施した、あるドラッグストアでの買い物におけるデータ解析から得られた分析指標となります。
具体的には、25店舗のドラッグストアを対象に、合計120万個の買い物かご(バスケット)の中身を分析したものです。
その結果、毎週金曜日の夕方17時~19時の時間帯は「おむつとビールを同時に購入する30~40代の男性客が多い」という事実が明らかになりました。
この分析結果から、次のような状況が判明しました。
- 購入者は単身世帯ではない
- おむつを使用する乳幼児が家庭にいる
- 自宅でビールを愛飲する傾向がある
- 昼間に仕事をしており、帰宅前に来店した可能性が高い
こうした情報を元に、購入者のペルソナとしては「奥様からおむつの買い出しを頼まれた若い父親」であるという人物像が浮かび上がります。
そして、この父親は、おむつを買ったついでにビールも買って帰るというシナリオが想定されたのです。
この分析結果に従って各ドラッグストアでビールとおむつを隣に陳列したら、予想通り売上げがアップしました。
バスケット分析により、購入者の人物像を明確化させることで大きな効果があります。
さらなる売上げ増大や、今後のマーケティング戦略を立案する際の材料として効果的に活用されます。
リフト値の活用シーン②:ID-POSデータ
POSは、一般的に認識されている商品管理システムで、「Point of Sales」の略です。
これにID、すなわち顧客ごとの認識データを加えたものが「ID-POS」です。
同じ購買データでも、従来のPOSと、顧客認識を加えたID-POSでは大きく異なります。
POSデータは「購入された商品」に関する分析データですが、ID-POSデータでは、購入された商品ごとに顧客のIDが紐づいています。
このため、それぞれの顧客がどのような買い物をしているか、すなわち「誰が」「何を」「どのように」購入したかが分析できる高度なデータです。
活用する指標
ID-POSデータで活用される指標としては、主に以下のものが挙げられます。
・バスケット分析
こちらは上述のとおりです。
・ABC分析
ABC分析は、商品の売上げ構成比に基づき、該当する商品をA・B・Cという3つにランク分けします。
そして、売上げが好調な商品と、そうではない商品をグラフ化して分析する方法です。
・トレンド分析
トレンド分析は、今や広く定着したSNSやWebメディアに載せられた「口コミ」などがベースとなります。
これに、顧客の評価や感想・心理や市場傾向などを分析して、今後のトレンドを予測する手法です。
・RFM分析
RFM分析は、顧客一人ひとりの動向を次の項目によって調査・分析します。
その上で、それぞれの指標ごとに顧客がどこにポジショニングしているかを把握する手法です。
- Recency(最近の購入日)
- Frequency(来店頻度)
- Monetary(購入金額ボリューム)
・デシル分析
デシル分析は、購入金額から顧客をランクづけする手法で、購入金額が高ければ高いほど売上げ貢献度が高い顧客という結果を導き出す手法です。
指標別計算方法
ID-POSデータで活用される、上記指標別の計算方法は次のとおりとなります。
・バスケット分析
上述のとおりです。
・トレンド分析
IDレシートを使った分析例として、例えば直近の1ケ月で都心部の大手コンビニなどでよく売れている冷凍食品があります。
また、若い女性がよく買うお弁当など最新の動向をチェックすることで、食事に関する最新のトレンドが把握できます。
計算方法としては、手動(Excelなど)を使う方法もありますが、計算式などが煩雑です。
このため、手軽に活用できる分析計算ツール(Googleトレンド、ソーシャルアナリティクスツールなど)を活用します。
これによって、効率的に素早く最新トレンドを把握可能となります。
・RFM分析
RFM分析をExcelで行う際の具体的な計算方法と手順は次のとおりです。
- 顧客ごとに、当該集計期間内での最終購入日と購入件数、また累積の購入金額を集計する
- 最終購入日と購入件数、累積購入金額によって、R・F・Mのランクを割り当てる
- R・F・Mの構成を分析する
上記の分析結果から、コンビニなどの優良顧客が多く購入する商品を把握することで、今後多く販売すべき商品が把握可能となります。
例えば、ある大手コンビニではアルコールのカテゴリーで上位3%の優良顧上げを占めるなどの結果から、同顧客層向けの販売戦略が立てられます。
・デシル分析
デシル分析を行う際の計算手順は次のとおりです。
- 顧客ごとに、当該集計期間内の累積購入金額を計算する
- 累積購入金額を降順に並べ、顧客と対照させる
- 上記2のリストを10等分し、デシルランクを割り当てる
- デシルランクごとの構成と傾向を分析する
上記の分析によって、各デシルが全体に占める購入比率や売上げ構成比率がわかります。
そして貢献度の高い優良顧客の見極めが可能となり、顧客全体の中から最も重視すべきグループを判断し、今後の売上げ拡大への対応が効率化できます。
バスケット分析の注意点
バスケット分析について詳しく解説しましたが、注意すべきポイントもいくつかあるので、確認していきます。
主な注意点について解説します。
日頃から売れている商品は省く
バスケット分析を行う際には、日頃から売れている商品は省くことが重要です。
その理由として、元々売れ筋の商品は、データを分析しても直近の顧客の購買傾向かどうか判別しにくい点が挙げられます。
具体的には、季節商品やキャンペーン商品といった企画の影響を受けにくく、常に幅広い顧客から支持されている商品は分析の対象外とすべきです。
一例を挙げれば、タバコが該当します。タバコは、愛煙家にとっては一年を通じて購入対象となるので、季節やキャンペーンとは無関係です。
また、同様にミネラルウォーターなども年代や性別を問わず年間を通じて購入されるので、対象外とするのが一般的となります。
併売するジャンルの合わせ方に注意する
また、バスケット分析を実施する際には、併売するジャンルの合わせ方(商品の組み合わせ)にも注意が必要です。
その理由としては、消費者の購入パターンを分析する際がポイントです。
それぞれの商品やカテゴリーごとの組み合わせ次第で分析結果に大きな差異が出ることが挙げられます。
商品ごとの組み合わせで分析をする場合、商品ごとの詳細な結果が得られます。
その反面、組み合わせのパターンが複雑となります。その結果として誤差が生じる懸念があるのです。
一方、カテゴリーごとに組み合わせる場合は、母数が増えることで分析結果の精度が高くなっていきます。
ただし、母数が多いために詳細が判断しづらいリスクが生じるのです。
消費動向・購買モデルの事例はこちら
アソシエーション分析とバスケット分析の関係性
アソシエーション分析とバスケット分析の関係性についての解説です。
アソシエーション分析の一種
バスケット分析は、みてきたように商品の併売について分析する手法で、アソシエーション分析と同じ意味で使われることもあります。
広義で考えればアソシエーション分析の一種ですが、後述するとおり、それぞれの分析範囲や手法には差異があるのです。
バスケット分析とアソシエーション分析の違いをみてみましょう。
バスケット分析は小売業での購買行動で用いられるのに対し、アソシエーション分析は小売業以外にも利用されます。
アソシエーション分析の目的
アソシエーション分析は、発生したそれぞれの事象における関連性を探る分析手法です。
例えば、ある事象Aが発生した際に、別の事象Bが発生するという関連性を分析するものです。
アソシエーション分析は元来、店舗のPOSデータを解析するために開発された手法となります。
小売店を対象としたマーケティング施策を検討する際に活用されていましたが、事象ごとの関連性は数値で集計できるため評価が容易です。
そのため、現在では小売店に限らず、幅広い事業を対象とするマーケティング分析手法として活用されています。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
リフト値を活用したWebコンテンツの分析
リフト値を活用した、それぞれのWebコンテンツにおける分析についての解説です。
CVへの貢献度を分析
あるWebページ(X)の閲覧が、どれだけCV(コンバージョン)に寄与しているかについて分析したい場合があります。
その際に、リフト値を活用することで、ページ(X)の閲覧がCV数をどれだけ引き上げたかを分析・評価できます。
一例を挙げてみましょう。
【ページX】 PV数:500 セッション数:400 CV数:12 CV率:3.0%
【全体】 PV数:10,000 セッション数:6,000 CV数:150 CV率:2.5%
上記のとおり、対照となるWebコンテンツ全体に対して、当該ページ(X)にリフト値を活用したものです。
その結果、後述する計算によれば(X)のリフト値は1.2となり、CV数を0.5%引き上げる結果となります。
計算例
上表における計算例は次のようになります。
確信度:(ページX閲覧後のCV数/ページXのセッション数)=(12/400)=0.03
Bの支持度:(サイト全体のCV数サイト/全体のセッション数)=(150/6,000)=0.025
リフト値:(確信度/Bの支持度)=(0.03/0.025)=1.2
リフト値の計算に困ったら?
様々な活用メリットがあるリフト値ですが、計算上の問題点もあるのです。
例えば、ある商品の購買数が非常に少ない場合には、併売の可能性が高くなることが想定されます。
このような状況では、リフト値を軸に商品戦略を立案してもその効果は薄く、売上げの増大には結びつきません。
このように、リフト値の計算(結果)に困ることとなります。
打開策としては、リフト値ではなく商品の「買上げ率」に注目することがポイントとなります。
まとめ
小売店をはじめ、様々な業態で扱う商品を効率的に販売する際に必要となる「リフト値」の意味と活用法などについて詳しく解説しました。
この記事を読んで、リフト値をはじめとする様々な手法をよく理解し、活用することがポイントとなります。
それによって、自社製品の販売拡大へと繋げていただきたいものです。