ランチェスターの法則をご存知でしょうか。イギリス人エンジニアのF・W・ランチェスター氏が考え出した法則です。
第1次世界大戦時における軍事戦略の1つとして考案されたものですが、マーケティング戦略にも大いに活用することができます。
古くから活用されているとてもオーソドックスな考え方の1つですが、実はその本質を理解している人は多くありません。
この記事ではランチェスターの法則をマーケティング戦略に活かす方法や具体的な活用事例について紹介します。
目次
ランチェスターの法則の概要
ランチェスターの法則とは「強者」と「弱者」が戦場において、どう戦うべきかを解いた軍事戦略上の法則です。
全く相反する立場の軍勢が戦いを有利にするには、同じ戦い方をしていては勝てないとの考え方に基づき考案されました。
ランチェスターの法則において、強者は1対多数の近代戦、弱者はトップとの一騎打ちが有効であると解いています。
つまり「戦場」を「市場」と置き換えればビジネスの世界においても、有効に活用することができるとして古くから用いられてきました。
とりわけ日本においては、マーケティングコンサルタントの第1人者である田岡信夫氏が企業戦略として体系化しています。
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ランチェスターの法則における基本法則
ランチェスターの法則は「強者」「弱者」の相反する軍勢がどう戦うべきかを導いた法則です。
したがって、マーケティング戦略に活かすには、2つの基本法則を理解することが不可欠だといえるでしょう。
ここでは、マーケターが知っておきたい、ランチェスターの法則における2つの基本法則について解説します。
第一法則:弱者戦略
ランチェスターの法則における第一法則は「弱者戦略」になり、競合他社との差別化・業界トップとの一騎打ちが基本戦略です。
総合力で不利な中小企業(=弱者)が、業界トップ企業に数で対抗するのは無謀だといえるでしょう。
そこで、中小企業のフットワークを活かして、数から質を重視する戦略へとシフトするのが基本的な考え方です。
具体的には4Pや4Cなどのフレームワークを用いて、市場を深く理解することで隙間市場・ニッチ市場を探し出します。
その中で自社が勝負できる市場にターゲットを絞り込んで、競合他社との差別化・業界トップとの一騎打ちの持ち込むのが常套手段です。
第二法則:強者戦略
ランチェスターの法則における第二法則は「強者戦略」になり、ブランド力・組織力・資金力といった総合的で他を圧倒します。
いわゆる大企業(=強者)は市場をリードする存在であり、市場を大きく捉えて闘うのが基本的な戦略です。
「万人受けする」商品・サービスを大量に販売することでシェアの独占を目指しますが「保守的だ」と批判されることもあります。
しかし、あくまでも少数意見であり、多くの人が安心して利用できるという点では市場を支える存在だといえます。
また、莫大な宣伝広告費を投じて、大規模なプロモーションを展開できることも強者戦略の特徴だといえるでしょう。
弱者・強者の定義は?
ランチェスターの法則を応用したマーケティング戦略を実践するには、自社を弱者もしくは強者に定義付けることが不可欠です。
企業規模の観点では「大企業=強者」「中小企業=弱者」と定義付けるのが一般的だといえるでしょう。
見方を変えて「市場」といった観点では「シェア1位=強者」「シェア2位以下=弱者」といった定義付けもできます。
したがって、弱者もしくは強者を定義付けする際には、どういった切り口でマーケティング戦略を展開するのかで判断すると良いでしょう。
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ランチェスターの法則を理解した方が良い企業の特徴
ランチェスターの法則をマーケティング戦略に応用するには、どういった企業が適しているでしょうか。
一般的には弱者もしくは強者であることが明確にわかっている企業だと考えがちですが、それだけが条件ではありません。
ここでは、ランチェスターの法則を理解した方が良い企業の特徴について考えてみましょう。
業界内で1位以外の企業
ランチェスターの法則を理解した方が良い企業の最もオーソドックスな特徴は、「業界内で1位以外」であることです。
ランチェスターの第一法則では市場を細分化して自社が得意とする分野を絞り込み、トップとの一騎打ちに持ち込むのが常套手段になります。
業界内で1位以外の企業であれば、余程1位とのシェアが拮抗していない限り、ランチェスターの第一法則が応用できるといえるでしょう。
なお、業界内1位の企業との実績・規模の差が大きくなればなるほど、ニッチな市場を探し出すことが大切です。
ただし、ニッチでレアな市場を探し出すだけでなく、質の高い商品・サービスを提供することが重要であることはいうまでもありません。
ターゲットが曖昧な企業
ターゲットが曖昧な企業もランチェスターの法則を理解した方が良い企業だといえるでしょう。
ランチェスターの法則を応用するには弱者・強者に関わらず、ターゲット市場における自社のポジションが大切です。
言い換えれば、ターゲットが曖昧な企業は「どういった市場」で「どういった戦略」を導入するのかが明確ではありません。
したがって、ランチェスターの法則を導入することで、弱者・強者を見極め適切な戦略を講ずることができるでしょう。
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ランチェスターの法則における3つのルール
ランチェスターの法則には3つのルールがあり、マーケティング戦略に活かすには理解しておくことが大切です。
ここではマーケターが理解しておきたい、ランチェスターの法則における3つのルールについて解説します。
ナンバーワン主義
ナンバーワン主義はランチェスターの法則における、第二法則「強者戦略」に基づくルールです。
具体的には市場における2位以下の企業に対して圧倒的な攻勢をかけ、その差を大きく引き離すことを目的とした戦略になります。
2位以下の企業との差が僅差であれば競争が激しくなり、その座が危ぶまれることも考えられますが圧倒的な差だと競争原理が働きません。
つまり、自社の市場でのポジションが長期にわたって確約されることから、企業は商品・サービスの開発に集中することができます。
なお、ナンバーワン主義を実践する際、勘違いしやすいのがその市場規模です。
一般的には大きな市場をイメージしがちですが、市場規模は小さくとも全く問題ありません。
大切なのは2位以下を大きく引き離した市場を数多く持つことであり、その積み上げが経営基盤を強固なものとします。
一点集中主義
一点集中主義はランチェスターの法則における、第一法則「弱者戦略」に基づくルールです。
資本や人材、設備などの総合力で劣る弱者は、市場における全ての分野で強者に打ち勝つことはできません。
そこで市場を小さく細分化し、特定の地域や顧客層などの要素から勝ちが見込める一点に絞り込んで勝負するのが一点集中主義です
大企業は業界における市場を広く捉えて、全体で高いシェアを占めていますが万能ではありません。
市場を細かく絞り込んでいけば、必ず逆転できるニッチ・隙間市場は残っています。
全体では勝てなくとも、自社の得意な分野の1点に労力やコストを集中することで必ず活路を見出すことができるでしょう。
「足下の敵」攻撃の原則
「足下の敵」攻撃の原則はランチェスターの法則において、「強者」「弱者」問わずに応用できるルールです。
具体定には自社の1ランク下の企業に対して攻勢をかけ、差を広げようとする戦略であり「ナンバーワン主義」と非常に似通っています。
ただし、ナンバーワン主義は市場で1位のシェアをもつ企業が2位以下の企業に対して仕掛ける戦略です。
これに対して「足下の敵」攻撃の原則は、自社の立ち位置から1ランク下の企業に狙いを定める戦略となります。
なお「足下の敵」攻撃の原則を用いる際には、競合他社とともに自社の市場における市場価値・企業力を分析しておくことが重要です。
マーケットシェア理論の活用
ランチェスターの法則から考案された、ビジネスの考え方に「マーケットシェア理論」があります。
マーケットシェア理論とは、業界内にシェアにおいて自社がそれだけの市場占有率もしくは占拠率を占めているかを示す指標です。
市場占有率もしくは占拠率が高くなればなるほど、業界内での立場が有利となり「強者」に近づくことになります。
したがって、マーケティング戦略においては自社の業界内で置かれている立場を的確に把握することが大切です。
その上で、市場占有率もしくは占拠率を目標とし、自社の特徴・強みを活かした戦略を実践すると良いでしょう。
ランチェスター戦略の活用方法
ランチェスター戦略には「地域戦略」「流通戦略」「営業戦略」「市場参入戦略」の4つの活用方法があります。
前項で紹介したマーケットシェア理論を活用し、自社の状況に適した活用方法を選ぶと良いでしょう。
ここでは、マーケターが理解しておきたい、ランチェスター戦略の活用方法について解説します。
活用方法①:地域戦略
ランチェスター戦略における地域戦略とは「地域ナンバーワン」を目指す戦略です。
もともとランチェスター戦略は軍事戦略として考えられたものであり、その地域における領土を奪うことを目的としています。
飲食業界では全国区で展開するチェーン店が全国規模で高いシェアを占めていますが、特定の地域では必ずしも強いわけではありません。
地元に根差した地元チェーン店が大きなシェアが占めており、目玉メニューを携えた個人商店も検討しています。
まさにランチェスター戦略における地域戦略の成果であり、実現性の極めて高い戦略だといえるでしょう。
活用方法②:流通戦略
ランチェスター戦略における流通戦略とは自社商品・サービスを取扱う店舗(=流通網)に着目した戦略です。
自社商品・サービスを取り扱う店舗の売り上げを上位から並べて、70%までの店舗をAグループとします。
また、自社商品・サービスを販売する店舗において、その割合が30%以上の店舗をa店とした場合、Aa店が重要な流通網です。
そこで、Aa店率を以下の公式で求めます。
- Aa店率=Aa顧客数 ÷ Aグループ顧客数 × 100
流通戦略では、売り上げが多く自社商品・サービスの占有率が高いAa店に集中した対策を展開します。
これはランチェスター戦略における一点集中主義にあたり、弱者戦略として有効です。
活用方法③:営業戦略
ランチェスター戦略における営業戦略の特徴は、マーケットシェアをアップさせることに主眼をおいている点です。
ターゲットとなる市場を絞り込み、その中で大口顧客を中心に商談を制約させAa点率をアップさせるのがポイントだといえるでしょう。
また、効率的にターゲット顧客を絞り込むために、MAやCRMツールを導入する企業も増えています。
活用方法④:市場参入戦略
新規市場に参入する場合においても、ランチェスター法則は有効です。
具体的には先発企業のシェアが40%を超えているか否かで参入の可否を判断します。
先発企業が40%を下回っている場合、参入を可としますが、上回っている場合は市場を細分化する弱者戦略に切り替えるのが得策です。
市場を細分化する際には地域・隙間といった市場を検討することにに加え、隣接領域市場も有効だといえるでしょう。
例えば自動車販売であれば新車市場ではなく、中古車市場にターゲットをずらすことで思わぬ市場が開拓できることも少なくありません。
支援実績やコンサルティングの詳細は、実績・事例紹介のページをご覧ください。
ランチェスター戦略の活用事例
ランチェスターの法則を活用した戦略を実践するには、実際に成功している事例を研究すると良いでしょう。
成功事例を研究することで、座学では学びきれない活きたノウハウを身につけることができるのがその理由です。
ここでは、マーケターがチェックしておきたい、ランチェスターの法則を活用した成功事例を紹介します。
「HIS」弱者戦略の成功例
旅行代理店「HIS」はニッチな市場を開拓して、海外旅行の分野で大きな成功を収めています。
ハワイやアメリカ、ヨーロッパ諸国などメジャーな観光地は大手旅行代理店の独壇場であり、とても新規企業が入れる市場ではありません。
そこで「HIS」はメジャーな観光地を諦め、セブ島やバリ島など新興リゾート地市場に活路を見出すことにしました。
さらに「格安海外旅行のHIS」といったブランドイメージを浸透させ、新興リゾート地の分野では確固たる地位を築いています。
「セブンイレブン」弱者戦略の成功例
今でこそ全国区での店舗展開に成功している「セブンイレブン」ですが、かつては西日本で大苦戦を強いられていました。
そこで、西日本におけるの特定の地域に店舗をオープンさせ、地域密着型のサービスを展開することで徐々にシェア拡大に繋げています。
つまり、弱者戦略における一点集中主義と地域密着型の戦略を実践したことで、大きくシェアを拡大させたといえるでしょう。
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ランチェスターの法則を活かした戦略で悩んだ時は?
ランチェスターの法則はマーケットシェア理論に通ずる戦略であり、マーケターであればマスターしておきたい手法です。
ランチェスターの法則を活かした戦略を組み立てるには、市場での立ち位置を明確にすることが大切になります。
しかし、経験の浅いマーケターだとターゲット市場の選択にも悩んでしまうことが予想されます。そこで活用したいのがコンサルです。
コンサルはターゲット市場の選択に加え、ランチェスターの法則を活用した戦略の組み立て方まで丁寧にレクチャーしてくれるでしょう。
まとめ
ランチェスターの法則は軍事戦略の1つですが、ビジネスに活かすことで、組織力の乏しい企業でも大きな成果が期待できます。
ランチェスターの法則をビジネス戦略に活かすには、ターゲット市場における自社の立ち位置を正確に把握しましょう。
その上で、自社が強者にあたるのか、もしくは弱者にあたるのかを定義付けることが大切です。
強者であれば大きな市場において2位以下を圧倒する戦いを展開し、弱者であればニッチな市場においてナンバーワンを目指します。
つまり、ランチェスターの法則は、ターゲットシェア理論に通ずる戦略であり、小さな企業が大企業を逆転できる手法だといえるでしょう。
ランチェスターの法則はとてもシンプルなものですが、実際に取り組もうとするとターゲット市場の捉え方や戦略の構築に苦労します。
ランチェスターの法則を活かした戦略で悩んだらコンサルを使用しましょう。豊富な経験・スキルを活かしたフォローが望めます。