経営における考え方の一つとして、三方よしというものがあります。

これはかつての近江商人が経営理念として掲げていたものですが、現在の企業理念でも大事なことだとされています。

これからビジネスにこの考え方を取り入れるならば、意味から取り入れる方法を理解しなければならないでしょう。

今回の記事では、現在でも重要だといわれる三方よしについて解説していきます。

この考え方を取り入れた事例から、実はSDGsとの関連があることなども踏まえて紹介します。

「三方よし」の由来

三方よし、由来

詳しい意味を理解する前に、三方よしの由来について理解していきましょう。

企業理念の考え方にも使われる三方よしの由来は、近江商人と聞いたことはあるかもしれません。

しかし、その細かい情報まで理解している人は少なく、勘違いをしている人も多いです。

これから考え方を取り入れるためにも、正しい理解をしていきましょう。

近江商人が由来

近江商人、由来

三方よしの考え方の由来は、知っている人も多いかもしれませんが近江商人になります。

近江商人は、江戸から明治時代にかけて活躍した商人のことです。

近江の千両天秤」と呼ばれる天秤棒を担いだその姿は有名ですが、この天秤棒1本から財を築いたとされます。

そして、大坂商人や伊勢商人とならぶ日本三大商人として有名なことは知っている人も多いでしょう。

近江商人は、現在の滋賀県の近江八幡市を始まりの地としています。

しかし、この近江の地で商いをしていた人を近江商人というのではありません。

彼ら近江商人は、この近江の地に本店や本宅を構えてそこから全国へと行商へ出向いたのです。

九州から北海道まで、その地域を広げて商いを行い豪商と呼ばれるまでになりました。

事業の永続を目標として掲げていた

事業の永続、目標

由来となった近江商人については知ることができましたが、では彼らは他の商人と何が違ったのでしょうか。

それは、事業に対して掲げた目標でした。

通常の商売においては、自社の利益を重要視するものやあるいは売り手と買い手の2者を重視する考え方でした。

しかし、近江商人は違ったのです。

近江商人が掲げた目標は、世の中の過不足を補い需要と供給を調整することだったのです。

通常の商売では、商売における才覚はお金儲けや損得勘定ができること。

そして、それゆえにお金儲けを目標とすることを掲げる人が多かったようです。

しかし、近江商人は自らの損得ではなく世の中のためにできることを考えていました。

それゆえに、事業の永続ができるとも考えていたからです。

近江商人は事業の永続を目標に掲げて、先を見据えてお金儲けに固執することなく商いを行っていたのでした。

 

ワンポイント
三方よしの由来について理解を深めましょう。

「三方」の意味

三方、意味

由来となる近江商人のことや、彼らの考え方について理解することができたでしょう。

この当時から、彼らのように世情のことを考えて商いを行ってきた人はいたのです。

それでは、彼らが原点となる三方よしの意味についても理解を深めていきましょう。

自社の損得だけを考えていなかった近江商人がルーツとなるこの言葉の意味を知れば、さらに企業の目指す先が見えるでしょう。

売り手

売り手

三方よしの意味には、三者登場します。

その1つが売り手です。つまりは、企業側になります。

商品を買い手に売る立場であり、世間からは評価される対象になる立場です。

また、物を売ることだけがこの三方よしにおける考え方の基礎と感じている人が多いです。

しかし、企業の使命や志も考え方には関係します。

世間から評価をされるのは、商品の良しあしよりもこういった企業の使命の部分だったりするのです。

通常企業は、商売を行う上で自社の利益を第一に考えることが求められるでしょう。

会社の経営において、自社が存続していくにはどうしても利益を得なければ続けていけないからです。

しかし、自社の利益ばかりを追求して存続できるほど商売は甘くありません。

そこで登場するのが、買い手の存在で売りてよし買い手よしの考え方です。

買い手

買い手

売り手よし買い手よしの考え方で登場した、買い手となる立場。

どのような人なのかというと、お客のことを表しています。

買い手とはお客のことを表し、売り手との関係では商品を購入して受け取る人のことです。

もちろん、購入にはお金を払い商品を受け取ります。

先ほどの売り手よし買い手よしの考え方は、企業が存続するためにお客にとっても得があるようにとする考え方です。

売り手の得ばかりを考えては、一時的に利益が出せても企業の存続は難しい。

そのため、買い手にもきちんとメリットがあるように考えるのが売り手よし買い手よしの考え方でした。

しかし、近江商人はこの考え方では足りないと考えたのです。

世間

世間

近江商人が何が足りないのかと考えた結果、その足りないものは世間だと考えたのです。

世間とは、競合他社を含む社会のことをさします。

三方よしの考え方では、この世間がよくなっていくことも必要だとしています。

売り手と買い手の2者が良くとも、近江商人にとってはまだ足りません。

自分たちが永続的に商いを行えるようになるには、さらに世間も豊かにならなければ無理だと考えたのでしょう。

世間がよくなるには買い手からの信用を得て、その結果買い手の生活が豊かになる。

そして、その先に世の中がよくなっていくという考え方を持っていたのです。

三方よしには、この売り手・買い手・世間の3者がどれもかけることなく豊かになっていくことを念頭に掲げているのです。

 

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事例①:伊藤忠商事

伊藤忠商事

三方よしの意味について、各立場と関係性などを踏まえて解説しました。

それでは、実際に三方よしの考え方を取り入れて存続している企業の事例をご紹介しいてきましょう。

1つが伊藤忠商事です。

この会社の創立者が、近江商人でもあった伊藤忠兵衛氏なのです。

彼は、近江商人の考え方を取り入れ実行し成功を収めた代表というべき人でしょう。

創立者である彼自身、関西から自らの足を使って関東まで行商を行ったりしていました。

そこで、三方よしの考え方を得て社会の幸せを願って会社を大きくさせていったとされています。

 

ワンポイント
活用事例を参考にして、自社の状況と照らし合わせてみましょう。

事例②:株式会社高島屋

株式会社高島屋

代表的な事例の2つ目が、株式会社高島屋です。

三方よしの考え方は、創業者である飯田新七氏が汲んでいます。

実は、飯田新七氏は近江商人である飯田儀兵衛という人物の婿養子だったのです。

近い親族に近江商人の考え方を持つ立場の人がいたので、彼の会社にもこれを取り入れ大きくなっていったのでしょう。

高島屋も、今や日本を代表する大きな企業です。

その企業は、社会に認められていなければここまで大きくなることは難しいでしょう。

三方よしを理念に取り入れているからこそ、事業拡大を成功させることができたといえます。

事例③:本田技研工業株式会社

本田技研工業株式会社

3つ目の事例として、こちらも大企業にまで成長している本田技研工業株式会社です。

創立者である本田宗一郎氏も、三方よしの考え方を取り入れ会社を大きくしていきました。

さらに、彼は三方よしを自社向けにアレンジして応用も行っています。

彼が掲げたのはこれまでの三方よしとは違い、以下のような理念に仕上げていました。

  • 売ってよし
  • 買ってよし
  • 作ってよし

これが現在の企業理念のルーツになっています。

三方よしとの大きな違いは、作ってよしの項目でしょう。

この理念はつまり、商品やサービスの品質が良く仕入先・取引先・地域社会・環境にも貢献できるものを作ろうというものです。

本来の意味とは少々異なってはいますが、基礎となった三方よしがあったからこそできる考え方でもあります。

この理念を掲げていたからこそ、今の本田技研工業株式会社があるといえるでしょう。

企業の社会的意義の変化

社会的意義、変化

三方よしの考え方を理解し、これまでにその理念を掲げて大きくした企業の例をみてきました。

社会的にも、三方よしの考え方が認められていたからこそ企業の拡大が可能だったと考えられます。

しかし、現在に目を再び戻してみると実は企業の社会的意義の変化が起きています。

これは、三方よしの考え方自体を変えるほどではありませんが企業の在り方には大きく関係する変化です。

ここでは、企業の社会的意義の潮流について解説していきます。

株主価値の最大化を重視

株主価値の最大化

企業として、株主価値の最大化を重視することは無視できないポイントです。

それは、株主価値の最大化が同時に企業の価値の最大化となるからです。

企業の価値が最大化というのは、企業にとっての利益はもちろん社会的な価値も大きくなることを意味するでしょう。

しかし一方で、企業には社会貢献が当然求められます。

先述したように、三方よしの中では世間も豊かにになるように取り組みを行わなければなりません。

社会貢献は、企業にとっては避けて通れない課題です。

しかし、現在の株主価値の最大化と対比すると対立とまではいかなくとも相対する位置づけになるでしょう。

企業としては、このような社会貢献が必要な立場の中で株主価値の最大化重視という両者を成立させなければならないのです。

変化の激しい時代ではありますが、両者をいかにして同時に満たすかを考えなければなりません。

CSRからCSVへ変化

CSR、CSV

社会貢献と先述しましたが、その社会貢献の意味合いも変化しています。

かつてはCSRとして、社会への説明責任が問われるものでありました。

社会貢献を行うことは必須であり、その説明責任が問われていたのです。

そして、それに対して企業が社会的に存在することが許されるような関係がありました。

しかし、企業の社会的意義の変化の中でこの社会貢献の面においても大きく変化が起きています。

それがCSRからCSVへの変化です。

CSVとは、2006年にマイケル・ポーターによって提唱されたものでより直接的に課題に取り組むことが求められるものです。

しかし、企業にとってもより具体的な見返りがあるものにもなります。

企業は社会的課題に取り組み、それに対して社会と価値を共創し同時に企業の利益も最大化を図ることができるのです。

CSRが社会的に良いことをするだけに対して、CSVではよりその価値や利益の大きさに重きを置いているような形になります。

それゆえに、企業にとっても利益が得られるような考え方にもなっています。

社会的貢献という点においても、企業に求められる価値や取り組み内容は社会とともに変化していっているのです。

 

ワンポイント
企業の社会的な意義の変化を踏まえて、三方よしの理解を深めましょう。

三方よしを取り入れる方法

三方よし、方法

企業にとって、三方よしがどれだけ重要で社会の変化に対してどういった形が求められるのか。

これから三方よしの考え方を取り入れるのであれば、社会の様々な要素を組み込んで検討する必要があるでしょう。

それでは、実際に三方よしを取り入れる方法について解説していきます。

具体的な方法を知ることで、今後企業に取り入れる戦略を立てられるでしょう。

企業としての理想・理念を明確にする

理想・理念

企業へ取り入れる方法として、まずは理想・理念を明確にしましょう。

今の業界には、どんな課題がありどんなことが求められているのか。

そしてその課題解決に向けて、どんな取り組みをすべきなのか考える必要があります。

課題解決ができれば、どういった理想的な社会に変わりどんな顧客が見込めるのかも重要です。

また、企業として絶対にしたくないことなど仕事の本質を振り返ることも必要です。

これらを細かく見つめなおすことで、企業として理想や理念を明確にしていきます。

企業として何を誰にしたいのか、その結果どうなりたいのかを考えなければターゲットも決まりません。

もちろん、社会的な貢献など説明責任を果たすことも難しいはずです。

まずは、上記のような自問自答を繰り返し理想・理念をはっきりさせましょう。

顧客像を明確にする

顧客像、明確

理想や理念を明確にした次は、顧客像を明確にしていきましょう。

そのためにも、再び分析を行っていく必要があります。

企業にとって、一番役に立ちたい人はどんな人か。その人にとっての幸せとは何か。

その人に対して、自社は何ができすぐにできることはあるか。

このようなまずは誰に対して何ができるかを考えると顧客像を明確にできるでしょう。

現実を正確に把握する

現実、把握

顧客像が明確にできた次のステップは、現実を正確に把握することが重要です。

社会的な問題はもちろんですが、顧客が抱える課題は何なのかを知ることは大変重要です。

それがわからなければ、行動を起こせませんし何をしていいかも見当がつきません。

顧客が抱える問題やストレス、理想に対してのギャップを正確に把握することがアクションへの第一歩になるでしょう。

理想と現実のギャップを埋める商品・サービスの開発

商品・サービス、開発

現実を正確に把握し、顧客の抱える課題が理解できたら次は理想と現実のギャップを埋めていきます。

どのようにしてギャップを埋めるのかというと、課題解決に役立つ商品やサービスを開発するのです。

先述した通り、顧客は理想とのギャップを抱えています。つまりこれが課題です。

それは大きくなると社会的な課題にもなります。

そしてこれらの課題を解決できれば、当然解決の糸口になった商品やサービスの価値が生まれます。

たとえ、完全に解決にならずとも少しでもギャップが少なくなれば価値は多少なりとも発生するでしょう。

そして、この価値こそが企業にとっての利益に結び付くものになります。

だからこそ、正確に顧客の課題や現実を把握する必要があるわけです。

ギャップを少しでも減らし課題を解決へと導くことができれば、顧客は企業へ感謝を感じ魅力を覚えます。

ここから、企業の価値と利益に結び付き社会的にも必要とされる状況に形作られていくわけです。

 

ワンポイント
三方よしの取り入れ方を理解して、自社導入の手順を整理しましょう。

三方よしとSDGsの関連性

三方よし、SDGs

企業がいかにして三方よしを取り入れるのか、その方法を押さえることができました。

決して簡単なものではなく時間がかかりはしますが、ここが企業の価値を高める重要なポイントになります。

その重要性は高く、今後の企業の行く末を左右するものだともいえるでしょう。

そんな三方よしですが、実はSDGsの関連性も高いといわれています。

世界的に掲げる目標であるSDGsとどんな関連があるのか詳細を解説しましょう。

三方よしとSDGsの共通点

三方よし、SDGs、共通点

世界的な目標としてのSDGsを各企業が積極的に取り入れようとしている中、三方よしとの共通点が見受けられました。

その共通点とは、同時に社会の課題解決企業利益を作り出すことが可能な点です。

三方よしでは、売り手・買い手・世間が同時に豊かになってこそ企業の価値や利益も得られるというもの。

一方、SDGsでは例えば人材の育成と確保が新たなビジネスチャンスの確保に繋がるといわれています。

少子化に伴い男性技術者が今後少なくなると予見されていますが、それに対し理系女子の確保が対策として考えられています。

そして、これは単に社会への人材育成の貢献や企業の人員補充という面の期待だけではありません。

女性が企業に入ることで、新たな視点が培われ商品開発などに活きてくると考えられているのです。

つまり、将来的に見れば企業にって大きな利益を生むビジネスチャンスということです。

このように、社会貢献によって社会が豊かになると同時に自社の利益も生まれるという部分が三方よしとの共通点。

現代のSDGsの考え方と過去の考え方の共通点になるのです。

日本のビジネスモデルとの親和性

ビジネスモデル、親和性

三方よしは日本のビジネスモデルにも親和性が高いとされています。

これは、日本企業が世界的にも長寿企業が多い国であることと関係が深いです。

日本のビジネスモデルのほとんどが、目標に永続的な存続を掲げることが多いようです。

そのためには、自社の利益を確保することはもちろんのこと社会的な貢献をしなければ無理でしょう。

社会に一切貢献することなく、社会から淘汰されることを防ぐのは国民性もあり無理なのです。

そのため、ビジネスモデルの根底には社会への貢献が根付いています。

また、国民性を取り上げるならば「よそ者意識」も外せない視点です。

見ず知らずの人が知らない土地からきて商売を始めたとき、どうしても「よそ者意識」を持ってしまうのです。

これは、よそ者で大所帯になればなるほど意識も高まってしまいます。

ではその意識をどうやって解消するかというと、やはり社会貢献になるのです。

永続的な存続を求める気質や「よそ者意識」において社会貢献は必然的に必要と考える習慣があります。

このように日本の根底にあるビジネスモデルと、三方よしとの親和性は高いものと考えられるのです。

 

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三方よしを取り入れたビジネスで悩んだら

デジマクラス

三方よしの考え方や、企業への取り入れ方など事例を踏まえて解説しました。

もともと日本の企業との親和性は高いようですが、それでも新たに取り入れるとなると簡単ではないでしょう。

企業の理念や理想、ターゲットとなる顧客など1から考えることは沢山あり、不安を抱える人も多いはずです。

もし、今後の三方よしの考え方やそれに沿った企業の取り組みでお悩みの方はデジマクラスにご相談ください。

専門のコンサルタントのアドバイスのもと、今後の企業の取り組みに必ず成果を出すことができるはずです。

 

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まとめ

まとめ

今回は、三方よしの情報を詳しく解説しました。

社会が様々に変化する中で、近江商人が過去に考えていた通りの三方よしの運用は難しいかもしれません。

しかし、この考え方は日本企業にとっては社会・顧客どちらにとっても大事なものです。

逆をいえば、この考え方で成功できれば企業の永続性に大きくつながります。

今回の情報をもとに三方よしを取り入れ、企業理念の見直しや取り組み内容の精査などの参考にしてみてください。