市場の動向や市場における自社製品の優位性、顧客満足度などを把握しておくことは、経営戦略マネジメントを行う上で不可欠です。

そのためには適切な情報を適切に分析し、限りある資源を有効に配分する必要があります。

このような効果的な経営資源の分配戦略立案のための経営情報分析手段に「ポートフォリオ分析」が最適です。

今回はポートフォリオ分析の種類や活用法、注意点について例を挙げながら解説していきます。

ポートフォリオ分析の特徴

ビジネス ポイント

ポートフォリオ分析では、経営戦略マネジメントを行う際に、情報を適切に分析した上で戦略を立てることができます。

ポートフォリオ分析はいくつか種類がありますが、基本的には2次元グラフを活用する分析手法です。

ポートフォリオ分析の手法として、主に以下の3つがあります。

  • CSポートフォリオ分析
  • PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
  • バリューポートフォリオ

これらの分析手法ではどれもエリアを4つに区分し、縦軸・横軸の指標をもとに項目を各エリアに配置します。

これにより注力すべき事業が簡潔に可視化され、社員間の共有もしやすい点が特徴です。

事実として存在する数値や情報から最適な戦略を導き出すため、信頼性のある戦略の立案が期待されます。

 

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ポートフォリオ分析を活用するメリット

ポートフォリオ分析は分析する項目の重要度や改善すべき項目を抽出することができる分析手法です。

そのポートフォリオ分析を活用するメリットを解説します。

優先順位の判断がしやすくなる

パソコンを見る男性

ポートフォリオ分析活用のメリットとして、まず優先順位の判断を容易にするという点が挙げられます。

分析結果が4象限に分けられ、かつそれぞれに対し取るべきアクションが決められているためです。

例えば顧客満足度から戦略を練るCSポートフォリオ分析では、顧客へのアンケート等から企業の強みや改善項目を分析します。

企業としての重要度が高いもので顧客満足度の低い項目は、企業のイメージにも大きくかかわるため最優先で改善すべき項目です。

重要度が高いものでも、顧客満足度の高いものは現状維持です。

このように、企業が優先的に改善すべき点や現状工数を割く必要のない項目が可視化され、効率的な業務配分を実現できます。

資源を合理的に配分できる

また、従業員や時間、資金等の限られた資源を合理的に配分できる点も、ポートフォリオ分析を活用するメリットです。

例えば、ポートフォリオ分析の1つに、複数の事業や商品を持つ企業の経営情報分析手法であるPPM分析があります。

これは市場占有率(シェア)と市場成長率から効率的な資源の配分を分析する手法です。

市場成長率が低く市場占有率も低いものは、収益が見込めないため市場からの撤退を検討します。

市場成長率が低くても市場占有率が高いものは、安定的な収益が見込めるため他の成長事業への収益源として再投資し続けます。

収益の見込めないものは思い切って撤退するなど、限りある資源を無駄なく投資できるのです。

 

ワンポイント
ポートフォリオ分析で事業の優先順位が明確になる。

CSポートフォリオ分析の例

CSポートフォリオ分析「CS=顧客満足」向上を目的とした分析手法です。

ある商品やサービスにおける顧客満足度と企業にとっての重要度を測り、4象限に振り分け改善の優先度を分析します。

ここでいう重要度とは、ある項目が総合満足度に対しどれくらい影響があるかということです。

項目ごとの総合満足度への影響や顧客満足度の度合いの分析により、改善すべき項目や改善優先度の低い項目が可視化できます。

ここでは、スーパーマーケットでの接客や品揃えなどの項目に対するお客様満足度のアンケートを実施した場合を例にして見てみましょう。

重点改善項目

レポート

重点改善項目は、重要度が高いにもかかわらず、顧客満足度が低い項目です。

この項目が原因で顧客が離れていくことも考えられ、最優先で改善に注力する必要があります。

例えば「品揃え」が重点改善項目の場合、顧客はスーパーの品揃えに不満があり、他店に流れている可能性が考えられるでしょう。

重点維持項目

男性がガッツポーズをしているイメージ

重点維持項目は重要度も高く、顧客満足度も高い項目です。

単に現状維持を目標にするだけでなく、競合他社に対する差別化項目として必要に応じて強化していく必要があります。

スーパーの「お総菜の味」が重点維持項目である場合で考えてみましょう。

この場合は今のクオリティはそのままに、さらに美味しいお総菜をつくることを目指す必要があります。

改善項目

改善項目は重要度も低く、顧客満足度も低い項目です。

総合的な顧客満足度への影響は大きくないものの、課題として中長期的に改善していくことが企業イメージのアップにつながります。

スーパーの「従業員の態度」が改善項目であった場合を考えてみましょう。

この場合、既存のリピーターは従業員の態度が気になるものの利便性を優先している可能性が大きいです。

接客態度に関する目標を1年に1つ増やすだけでも、既存顧客がより積極的に来店しやすくなり中長期的な顧客満足度の向上が見込めます。

維持項目

維持項目は重要度は低いですが、顧客満足度は高い項目です。

資源を割く必要性は少ないものの、少しでもレベルが下がると顧客が不満を抱く可能性もあり、意識的な現状維持が重要です。

例えば「店舗の明るさ・内装」が維持項目であった場合、他店も似たような雰囲気であり、顧客側も特に不満を抱いていません。

だからこそ清潔感を維持するなど、「当たり前」な部分の水準を落とさないことが大切です。

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の例

PPMはある製品やサービス、事業を市場成長率の高低と市場占有率(シェア)の大小で分類し、経営資源の効率的な配分を分析する手法です。

競合他社に対する自社の立ち位置を視覚化することができます。

ここでは衣料品メーカーでのPPMの場合の分析例をみてみましょう。

花形

パソコンを見る男性

花形は市場成長率が大きく、市場占有率も高い項目です。

他社との競合が激しく、市場占有率が高いとはいえ現状維持ではいられません。

シェアを維持するための継続的な事業投資や、他社との差別化になる戦略の立案が重要になってきます。

衣料品メーカーは若者の流行をいち早くキャッチし事業として大々的に展開することでブランド力を付けることができます。

それにより、流行が去ったあとも定番商品として「金のなる木」であり続けるのです。

問題児

悩む男性

問題児は市場成長率が大きいものの、市場占有率は低い項目です。

他社との競合が激しいか、独占・寡占状態の企業が存在するため積極的な投資を続けることでシェアを拡大し「花形」事業を目指します。

シェア上位企業の寡占状態だった場合、そこに新たな流行や定番を生み出すことができれば自社の「花形」となり得るでしょう。

成功させることができれば、顧客満足度のさらなる向上にも一役買ってくれることが期待できます。

負け犬

負け犬は市場成長率が小さく、市場占有率も低い項目です。

シェアが少ないため利益も大きくならず、成熟しきった市場であるため将来性もなく追加投資による効果もあまり期待できません。

市場が衰退しているなら思い切って撤退すべきです。

しかし市場が衰退しているわけではなく単に停滞していて将来的な需要低下の可能性も低いという場合もあるでしょう。

その場合は追加投資はせず利益率をあげながら、企業の資金源として残しておくのも考えられる1つの手です。

金のなる木

金のなる木は市場成長率が小さいものの、市場占有率が高い項目です。

成長率が低いというのは事業にとってマイナスなイメージがありますが、必ずしも撤退を検討する必要はありません。

市場占有率が高いということは安定的な利益が見込めます。

その上で市場が成熟しきっているということは新規参入企業が少ないために競争も穏やかです。

追加の設備投資も最低限でよく、かつ高い利益率で他の事業への資金源となるまさに「金のなる木」なのです。

衣料品メーカーの定番商品需要が安定している商品がこれに当たります。

バリューポートフォリオの例

最後に、バリューポートフォリオの分析手法を解説します。

これは複数の事業や商品を持つ場合のROI(投資利益率)ビジョンや理念との整合性をもとに分析する手法です。

「ビジョンや理念との整合性」は売り上げに即座に影響するものではありません。

しかし、その企業全体としての社会的信頼やブランド力に寄与するため重視する必要があります。

ここではECサイトを例にみてみましょう。

本命事業

Webサイト,使い方

本命事業は、ROIが高く、ビジョンや理念との整合性も高く保たれている事業です。

この理想的な状況を保ちつつ事業を拡大することで、投資家からの評価や顧客へのイメージ向上につながります。

積極的な経営資源の投資により拡大していくべき事業です。

例えば「オンリーワンの商品を届ける」という理念のもと一点物の作品を販売していたとします。

2つとない商品だからこその個性を持った商品を販売して利益を上げることは理念の整合性も保てており、本命事業といえるでしょう。

課題事業

机の上にグラフ資料と鉛筆

課題事業はROIが低いものの、ビジョンや理念との整合性は高い事業です。

利益を向上させるために無駄を省いたり売上向上の戦略を立案したりすることで、本命事業へ成長させる必要があります。

例えば先ほどの「オンリーワンの商品を届ける」が理念だとして考えてみましょう。

その理念通りの商品を扱っている場合はROIを基準に撤退を決めるには早計です。

仕入れコストを削減したり、ターゲッティング広告の戦略を再度立て直すなどして売り上げ上昇を目指す必要があります。

ブランド力に大きく寄与する事業のため、利益さえ出すことができれば企業の稼ぎ頭となる可能性を十分に秘めた事業です。

見切り事業

見切り事業はROIが低く、ビジョンや理念との整合性も低い事業です。

利益が出ないだけでなくブランド力の低下など他の事業の足を引っ張る要因にもなり得るため、早々の撤退を考える必要があります。

例えば多くの場所で買うことのできる有名ブランドの商品を扱っていた場合「オンリーワン」という希少性には疑問を持たれるでしょう。

また、自社ECではなくどこでも買えるのであれば、他ECで購入することも考えられ、利益につながらない可能性があります。

ビジョンの整合性の低さと利益率の低さ、この2つが足を引っ張り合う状況になっているならば撤退すべきでしょう。

機会事業

機会事業はROIが高いものの、ビジョンや理念との整合性は低い事業です。

今は良くても将来的なブランド力の向上にはつながりません。

その事業に合わせたビジョンや理念の修正や事業内容の見直しが必要になります。

順調に利益をあげ扱う商品が増えた場合「オンリーワン」ではない商品を扱うようになる可能性もあるでしょう。

その際に理念を見直すのか、事業内容を見直すのかを選択し、ビジョンや理念の整合率の向上を測ります。

 

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ポートフォリオ分析の活用方法

ミーティング

ポートフォリオ分析は、自社の効率的な経営に寄与するフレームワークです。

自社の事業や商品の強みや弱みを可視化することで、優先すべきアクションが誰でも分かりやすくなります。

同時に、他社の情報から市場の競合他社の分析をすることで自社の戦略立案に活用することもできるでしょう。

自社や他社のポートフォリオ分析を行うことによって市場の動きを常に把握できます。

それにより、自社の中長期的な事業計画によりロバスト性を持たせることができるでしょう。

 

ワンポイント
マーケティング戦略立案に有効活用できる。

PPMとバリューポートフォリオ分析を組み合わせた活用方法

グラフ資料と文房具

いくつかあるポートフォリオ分析の種類から、複数を組み合わせて活用するのも有効な手段です。

バリューポートフォリオ分析で「機会事業」だった事業に対し、ビジョンと事業内容どちらを見直すか迷った場合で考えてみましょう。

PPMの分析結果では市場成長率が高いと判断できるものの可能性があります。

ビジョンを見直して企業全体の方向転換を図ることで、ブランド力とROI両方の向上が見込めるでしょう。

逆に市場成長率が低かった場合はその事業は徐々に縮小していくことも視野に入れて検討できます。

 

ワンポイント
ポートフォリオ分析どうしを組み合わせることでより分析を深めることができる。

ポートフォリオ分析の注意点

男性

ポートフォリオ分析は、簡潔で分かりやすい分析であるがゆえに事業間の複雑な関係性や補完関係を見落としてしまう危険性も孕んでいます。

例えば売上が伸び悩む原因が、自社とは別に、業界の変化や社会の流れなど別の要素に潜んでいる可能性も考えられるでしょう。

また、大企業とベンチャー企業では各象限の意味合いが変わってくることもあるため、自社にあった解釈と判断が必要です。

 

ワンポイント
ポートフォリオ分析だけでなく他の分析手法も活用すべき。

ポートフォリオ分析で困ったら?

ミーティング風景

ポートフォリオ分析は項目別に顧客満足度や重要度が視覚的に把握できる分析手法です。

適切に行うことで自社の商品・サービスの強みや弱みがわかり、マーケティング戦略にも活用できます。

しかし、アンケートを実施したり市場規模を調べたりなど、手間やコストがかかる分析手法でもあります。

適切に分析できなければかえって時間ばかりを消費してしまう可能性もあるでしょう。

そうした不安がある場合は、コンサルタントに相談してみてください。

コンサルタントはマーケティングの専門家として、より効果的なポートフォリオ分析の手法や活用方法に関する相談にのってくれます。

また、ポートフォリオ分析をマーケティング戦略に活かす際にも相談することができる、心強い味方です。

ポートフォリオ分析やマーケティング戦略でお困りの際には、ぜひコンサルタントへご相談ください。

 

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まとめ

PRプランナー概要

今回はポートフォリオ分析の種類と例を紹介していきました。

ポートフォリオ分析は、さまざまな要素を分析して経営資源を効率的に分配するための経営戦略立案の手段です。

経営状況が悪化しているときはもちろん、安定しているときにも事業拡大や中長期的なブランド力向上のために活用してみましょう。